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心不全

心不全とは

心不全とは、一般的に「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と定義されています (日本循環器学会 ガイドラインより)。

心臓は全身に血液を送るポンプの働きをしています。その心臓の機能に何らかの障害が生じて、ポンプ機能を代償することができなくなった結果、呼吸困難、倦怠感、浮腫などが出現し、それに伴って運動耐容能が低下する病気です。

心不全の原因

心不全は、以下のような原因が考えられます。(赤字は代表的な疾患です)

心筋の異常による心不全

  • 虚血性心疾患 (狭心症、心筋梗塞)
  • 心筋症 (肥大型拡張型、拘束型、たこつぼ心筋症、不整脈原性右室心筋症)
  • 心毒性物質 (アルコール、抗がん剤、覚醒剤、放射線障害など)
  • 心筋炎、心膜炎 (ウイルス性、細菌性)
  • 免疫疾患 (関節リウマチなど)
  • 甲状腺疾患 (甲状腺機能亢進症、副腎不全など)、代謝疾患 (糖尿病)
  • 妊娠 (産褥心筋症)
  • 先天性酵素異常 (Fabry病)、筋疾患 (筋ジストロフィー)

血行動態の異常による心不全

  • 高血圧症、肺高血圧症
  • 弁膜症 (僧帽弁大動脈弁中隔欠損)
  • 心膜異常 (収縮性心内膜炎、心タンポナーデなど)
  • 高拍出症心不全 (重症貧血、妊娠など)
  • 体液量増加 (腎不全、輸液量過多)

不整脈による心不全

  • 頻脈性 (心房細動、心房頻拍、心室頻拍など)
  • 徐脈性 (洞不全症候群房室ブロック)

心不全の種類と症状

心不全は、病態の違いから、急性心不全と慢性心不全に分類されます。

急性心不全

急性心不全では、何らかの原因により心臓のポンプの働きが急激に悪化し、呼吸困難、胸痛、意識障害などの症状が出現します。心臓の働きが限界に達して、ポンプ機能が急激に破綻してしまうからです。その際に前兆はなく、突然に発症します。症状が瞬く間に悪化して、まるで水に溺れたような苦しさを感じます。

主な原因
  • 急性心筋梗塞や急性心筋炎など
  • 慢性心不全の急激な悪化 (弁膜症、高血圧、心筋症などをベースに認めます)
  • 頻脈性不整脈 (心房細動など)

慢性心不全

慢性心不全は、急性心不全とは異なり、心臓にゆっくりと負担がかかり続けることで、徐々に症状が進行します。ただし、慢性心不全が急激に悪化すると、急性心不全になります 。

主な原因
  • 陳旧性心筋梗塞 (心筋梗塞を発症して時間が経過したもの)
  • 様々な心筋症
  • 心臓弁膜症
  • 高血圧
  • 不整脈
  • 頻脈性不整脈 (心房細動など)
  • 徐脈性不整脈 (洞不全症候群、房室ブロック)
  • 肺高血圧症

慢性心不全は、徐々に症状が悪化します。胸に水が溜まり (胸水)、手足や顔のむくみが出現します。体重も増加していきます。これらの症状は、初期には自覚しにくく、はっきりと自覚する時には、心不全がかなり進行している場合があります。

急性心不全と慢性心不全での治療には大きな違いがあります。なぜならば急性心不全では、呼吸状態の急激な悪化をきたし、死と隣り合わせの状態だからです。可及的速やかに、酸素投与、血圧管理、陽圧呼吸を行っていく必要があります。

心不全のステージ

心不全の病期は、以下のようにステージAからDに分類されます。

(厚生労働省 2017を改変)

ステージA・Bの段階では、目立つ自覚症状はありません。心不全兆候が出現する頃には、ステージCです。ひとたびその段階になると、図のように心臓の状態は増悪と寛解を繰り返すようになります。身体機能は少しずつ低下し、活動が難しくなっていきます。ステージDは末期心不全と呼ばれます。この段階になると、治療も限界です。徐々に悪化の一途をたどり、最期を迎えてしまいます。

左室収縮能による分類

心不全の分類はいくつもありますが、左心室の収縮能で分類することが一般的です。左室収縮能とは、左心室の収縮力 (ポンプ機能)で、LVEF (left ventricular ejection fraction)といいます。LVEFの正常値は50%以上とされ、健常者の多くは60%以上です。LVEFの値により3つに分けられ、それぞれ治療指針が異なります。

① HFrEF (heart failure with reduced EF)

LVEFが40%未満で、左心室の収縮機能が低下した状態です。心筋梗塞、心筋症、高血圧性心疾患などが主な原因です。

② HFpEF (heart failure with preserved EF)

LVEFが50%以上と、左心室の収縮機能が保たれた状態です。心不全の主な原因は、左心室の拡張機能の障害と考えられます。心不全の増悪の要因が、心臓以外にあることも考えられます。

③ HFmrEF (heart failure with mid-range/mildly-reduced EF)

LVEFが40〜50%で、境界型心不全と言われます。臨床的特徴や予後について、まだ十分に確立していません。

心不全の検査

心不全の診断には、次のような検査を行います。

① 血液検査

心臓に負担がかかると上昇する、BNPやNT-proBNPというホルモンの値をみます。これらの数値は心臓のストレスを反映するため、心臓の異常の早期発見にもつながります。貧血や甲状腺機能異常も、心不全の原因となります。また、心不全の増悪に伴い、水分が体に貯留すると、肝臓や腎臓の数値も増悪します。

② 胸部レントゲン検査

心臓の拡大、うっ血や胸水の有無を確認します。

③ 心電図検査

虚血性心疾患 (心筋梗塞)や不整脈の精査を行います。

④ 心臓超音波検査 (心エコー検査)

心臓の器質的・機能的評価を行います。器質的評価では、心臓のサイズや弁膜症の重症度、機能的評価では、ポンプ機能 (収縮能;EF)や心臓内の血圧などをみます。心エコー検査は、心臓の状態評価において、簡便で最も有用な検査といえます。

⑤ 心臓CT、MRI、核医学、PET検査

これらの検査は、心不全の原因精査に有用です。心臓CT検査では冠動脈の評価、心臓MRIでは心筋症の鑑別、核医学検査では虚血評価、心筋症の診断や心不全の状態評価、PET検査ではサルコイドーシスやアミロイドーシスの評価に有用です。

心臓MRI

PET検査

⑥ 心臓カテーテル検査

心臓カテーテル検査には、右心カテーテル検査 (Swan-Ganzカテーテル)と左心カテーテル検査 (冠動脈カテーテル検査)があります。Swan-Ganzカテーテル検査では、心臓内の血圧や心臓の馬力 (心拍出量)を評価します。心臓内の血圧が高ければ、心臓の負担がまだかかっていることを示しているので、薬剤の調整を行います。冠動脈カテーテル検査では、冠動脈に狭窄や閉塞病変がないか評価することができます。これらの虚血性変化は心臓の筋肉の負担となっているため、カテーテルインターベンションを行うことで心不全の改善につながります。(詳細は虚血性心疾患の項を参照ください)

Swan-Ganzカテーテル

冠動脈カテーテル検査

心不全の治療

心不全ステージCの段階に入ってくると、自覚症状が出現し、生活に支障を来たしはじめます。日本循環器学会と日本心不全学会によるガイドライン (2021年度)では、心不全治療のアルゴリズムについて、次のように示されております。

(日本循環器学会 ガイドラインより抜粋)

心不全治療では、薬物治療と非薬物治療に分けられます。

薬物治療

前述のLVEFにより、用いられる薬剤に違いがあります。HFrEFでは、薬剤のエビデンスが豊富で、様々な薬剤を用いることができますが、HFpEFやHFmrEFでは限られているのが現状です。欧州では2023年のガイドラインでは、HFpEFとHFmrEFに対し、SGLT2阻害薬 (エンパグリフロジンとダパグリフロジン)の推奨クラスがIとなりました。

基本薬
  • ACE阻害薬 / ARB
  • ARNI (アンギオテンシン受容体ネプライシン阻害薬)
  • β遮断薬
  • SGLT2阻害薬 (エンパグリフロジン、ダパグリフロジン)
  • ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬 (MRA)

これらの薬剤は、HFrEF (LVEF <40%)において、生命予後を改善することが示された薬剤で、可能な限り内服することが推奨されています。特にSGLT2阻害薬は、当初糖尿病薬として認可されましたが、その後、心不全、腎不全に有用であることが、様々な臨床試験で実証されました。

ARNIは従来のACE阻害薬やARBが有するRAS系阻害作用に加えて、ネプリライシン (NEP)を阻害することで、生理活性を有するナトリウム利尿ペプチド (NP)の作用が増大し、血管拡張、利尿、尿中ナトリウム排泄、交感神経系抑制、心肥大抑制及び線維化抑制等の多面的な作用を示します。

併用薬
  • 利尿薬 (ループ、サイアザイド、トルバプタン)
  • ベイシグアト (可溶性グアニル酸シクラーゼ (sGC)刺激薬)
  • イバブラジン (HCNチャネル遮断薬)
  • 経口強心薬、ジギタリス
  • 血管拡張薬

利尿剤は基本薬と比べ、予後改善効果は乏しいため立ち位置が低いですが、心不全治療の要となる薬剤です。体の余分な水分を除去し、症状を改善させる効果が期待できます。その他、個々の患者さんの状態に応じて、これらの薬剤を併用し、心不全コントロールを行っていきます。

非薬物治療

食事療法、運動療法

食事と運動は、心不全のみならず、すべての病気と向き合う上で、切っては切り離せない重要な要素です。減塩 (一般的に6g/日)することで、体に水分が貯留することを抑えることができます。減量は、心臓の負担を大きく減らすことにつながります。また、運動療法は心不全による入院を有意に低下することが示されています。過度な運動は心臓の負担を増加させますが、適度な運動は、心臓にとっても重要です。

呼吸補助療法

睡眠時無呼吸症候群 (SAS)などの睡眠障害は、心臓の負担を増加させ、心不全を増悪させます。CPAPやASVによる持続的な陽圧呼吸を行うことで、心臓の負担を軽減し、心不全の悪化を抑えることができます。当院でも睡眠時無呼吸症候群の精査を行っております。

デバイス植え込み (PM, ICD, CRT)

徐脈性不整脈が心不全の原因となっている場合、ペースメーカー (PM)を植え込むことで、心臓の負担を軽減できます。また心室性不整脈を認める場合、除細動機能を有したPMであるICDを植え込むことで、致死的不整脈から命を守ります。

重症心不全では、心臓再同期療法 (CRT)を行います。右心室と左心室にそれぞれリード線といわれる電線を挿入し、両側から同時に電気を流します。心臓の動きをシンクロナイズ(同期)させることで、心臓のポンプ機能の改善に期待します。

弁膜症治療

弁膜症が原因であれば、弁治療を行います。従来は、外科的に弁形成あるいは弁置換術を行うしかありませんでしたが、近年は、カテーテルを用いた弁置換術やクリッピング治療が普及し、高齢者でも治療介入できるようになりました。(詳細は弁膜症の項を参照ください)

補助人工心臓 (VAD)、心移植

重症心不全で、自己の心臓で全身の循環維持ができなくなった場合、補助人工心臓や心移植を考慮する必要があります。

心不全治療のまとめ

心不全治療で重要なことは、心臓に余分な負担をかけないようにして、心不全を増悪させないようにすることに尽きます。

社会の高齢化に伴い、心不全患者さんは増加の一途を辿っています。心不全治療ではこれらの薬物・非薬物治療を用いて、包括的な介入を行っていくことが大切です。しかしながら高齢患者さんでは、副作用が懸念される薬剤であったり、体への負担が大きい治療も含まれており、必ずしもガイドライン通りに治療を行うことができるわけではありません。

心不全のガイドラインは60〜70歳のデータを基に作成されていますが、現実にはより高齢者を視野に入れて診療にあたる必要があります。当院では、個々の患者さんの状態や背景をよく把握し、最善の医療を提供できるように心がけております。

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