メニュー

マンジャロは本当に危険? 糖尿病患者における薬剤の有効性と副作用について

[2026.06.13]

先月、マンジャロの講演会にてパネルディスカッサーを務めさせていただきました。福岡大学病院の志賀先生といくつかのテーマについて討論させていただき、糖尿病に対するマンジャロ(チルゼパチド)の有効性と、副次的なメリットについて改めて理解を深めることができました。

 

 

チルゼパチドに関する論文も完成し、投稿まで漕ぎ着けました。ここからまた長い道のりになりますが、気長に頑張りたいと思います。

 

本日は、2型糖尿病におけるマンジャロの有効性について、大規模臨床研究のデータを基にお話しします。

 


 

マンジャロはどんな薬?

マンジャロ(一般名:チルゼパチド)は、GIP/GLP-1二重受容体作動薬として、これまでにない強力な血糖コントロールと体重減少効果を示す糖尿病治療薬です。

 

薬のメカニズム

チルゼパチドは、単一分子でグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体とグルコース依存性インスリン分泌促進ポリペプチド(GIP)受容体の両方を活性化する、世界初の「ツインクレチン」薬です。

  • GLP-1受容体活性化膵β細胞からのグルコース依存性インスリン分泌促進、α細胞からのグルカゴン分泌抑制、胃排出遅延、食欲中枢抑制による摂食低下をもたらします。
  • GIP受容体活性化追加のインスリン分泌促進、β細胞保護(増殖促進・アポトーシス抑制)、脂肪組織・筋肉・肝臓におけるインスリン感受性向上をもたらします。GIP単独では効果が限定的ですが、GLP-1との相乗効果により強力に作用するのが大きなポイントです。

その他にも、アディポネクチン(「善玉」脂肪細胞ホルモン)の増加、炎症マーカーの低下、脂質代謝改善なども期待されます。

これにより、インスリン分泌・感受性の向上、グルカゴン抑制、体重減少という多角的な効果を発揮します。半減期が長い(約5日)ため、週1回のみ皮下する注射薬です。

 

オールカフェ/タニタカフェのワンプレート

 

チルゼパチドは2種類ある

チルゼパチドは薬剤の一般名です。このチルゼパチドに「マンジャロ」とパッケージが貼られたものが糖尿病治療薬、「ゼップバウンド」と貼られたものが肥満症治療薬となります。中身は全く同じ薬です。

肥満症に対してゼップバウンドを投与することは適正使用ですが、マンジャロは糖尿病治療薬のため、肥満症に対しては添付文書上適応外となります。言葉のあやのようですが、これが現実です。

マンジャロは非常に有名ですが、ゼップバウンドは驚くほど無名です。叩かれるマンジャロ、名前さえほとんど知られていないゼップバウンド——なぜでしょう?

ちなみに薬価は、ゼップバウンドの方がマンジャロの約1.5倍します。中身は同じなのに、不思議ですね。

ゼップバンドについて詳しくはこちらをご覧ください。

 

ゼップバウンド (外観も使用方法も同じです)

 

マンジャロ(チルゼパチド)は危険な薬?

そんなことはありません。下記の図は、非糖尿病の肥満患者を対象とした大規模臨床研究の有害事象(副作用)をまとめた表です。チルゼパチド5mg、10mg、15mgプラセボを比較しています。

 

 

嘔気や気分不良は30%前後(プラセボ10%)と多く見られ、下痢や便秘も10〜20%(プラセボ6〜7%)とプラセボに比べて多い傾向にありましたが、薬の中止に至る副作用は4〜7%(プラセボ2.6%と極端に増えるわけではありませんでした。

非糖尿病患者を対象とした試験ですが、低血糖は1.5% vs 0.2%膵炎は0.2% vs 0.2%とプラセボ群とほぼ同等でした。また、がん関連事象も0.5〜1.4% vs 1.1%と差はなく、チルゼパチドががんリスクを上昇させる根拠にはなりません

適正使用、あるいは医師の管理下での使用であれば、大きな副作用をきたす懸念は決して高くないと言えます。昨今の過熱した報道は、薬剤の高い有効性がもたらす社会的関心によるものかもしれません。客観的なデータを知ることで、この薬剤に対する誤解が少しでも解けることを願っています。

 


 

糖尿病薬としての有効性(血糖コントロール)と安全性

マンジャロが世界的に注目されるきっかけとなった臨床試験がSURPASS試験です。これはマンジャロの有効性と安全性を多角的に検証するために設計された第3相の大規模臨床試験プログラムで、2型糖尿病患者を対象に5つの主要試験(SURPASS-1〜5)が行われました。

 

SURPASS-1試験(マンジャロ vs プラセボ)

食事・運動療法だけでは血糖管理が不十分な2型糖尿病患者478名を対象とした試験です。

有効性:40週終了時、HbA1cはチルゼパチド5mg群で-1.87%、10mg群で-1.89%、15mg群で-2.07%低下(プラセボ群 +0.04%)しました。HbA1c 7.0%未満達成率はチルゼパチド群で約90%(プラセボ20%)、HbA1c <5.7%到達者も30〜50%に及びました。また、体重減少効果も顕著でした。

安全性:主な副作用は吐き気、下痢、食欲低下などの消化器症状で、軽度〜中等度が中心でした。用量増量期に集中し、継続投与とともに軽減する傾向が見られました。重篤な低血糖は報告されておらず、単独使用時の低血糖リスクも低い薬剤です。

 

 

プラセボと比較して明確なHbA1c低下効果を示した

 

SURPASS-2試験(マンジャロ vs セマグルチド1mg)

1879名が参加した直接比較試験です。

有効性:40週後のHbA1c低下幅はチルゼパチド5mgで-2.01%、10mgで-2.24%、15mgで-2.30%と、セマグルチド1mg(-1.86%)を上回りました(10mg・15mg群でP<0.001)。HbA1c 7.0%未満達成率も15mg群で約92%と優位で、体重減少効果もチルゼパチド群が有意に優れていました。

安全性:消化器症状が主でしたが、全体的な安全性プロファイルは良好で、セマグルチドと同等または優れた忍容性を示しました。

 

 

セマグルチドを上回るHbA1c低下・体重減量効果

 

SURPASS-3試験(マンジャロ vs インスリン デグルデク)

メトホルミン±SGLT2阻害薬で不十分な患者1444名を対象とした52週間試験です。

有効性:HbA1c低下はチルゼパチド5mg群で-1.93%、10mg群で-2.20%、15mg群で-2.37%(デグルデク群 -1.34%)と有意に優位(P<0.0001)でした。HbA1c 7.0%未満達成率はチルゼパチド群で82〜93%(15mg群92.6%)、体重減少も15mg群で-12.9kgとデグルデク群を大幅に上回りました。

安全性:主な副作用は消化器症状で、用量増量期に多く見られ継続とともに軽減しました。低血糖リスクはデグルデク群より低く、重篤な低血糖の発生も少ない点が特徴です。

 

SURPASS-3でインスリンに対する優位性が示されました

 

トレシーバ (デグルデク)は、42時間以上の作用時間を持つ超持続型インスリンです。そのため11回で丸1日の間、ピークのない平坦な効き目を有し血糖をしっかり抑え込むことができる薬剤です。マンジャロは、このデグルデクをも凌駕する効果を有するのです。

 

SURPASS-4試験(マンジャロ vs インスリン グラルギン)

心血管リスクが高い患者約2000名を対象とした52週間試験です。

有効性:HbA1cはチルゼパチド5mg群で約-2.24%、10mg群で-2.43%、15mg群で-2.58%(グラルギン群 -1.44%)と有意に低下する(P<0.001)でした。HbA1c 7.0%未満達成率もチルゼパチド群が優位で、体重は15mg群で約-11.7kg減少(グラルギン群は体重増加)しました。心血管イベントリスクの増加も見られませんでした。

安全性:消化器症状が主で、低血糖発生率はグラルギン群より低く、特に重篤例が少ない点が利点でした。

 

グラルギン (インスリン)に対しても優位性を示しました

 

腎保護作用も強調されます

 

グラルギンは持続型インスリン製剤で、先ほどのデグルデクよりやや短い作用時間です。インスリンの基礎分泌を補充することにより24時間にわたり安定した血糖降下作用を有します。インスリン治療薬として広く使用されている薬剤ですので、この結果からもマンジャロの有効性と安全性が改めて強調されます。

 

SURPASS-5試験(マンジャロ vs プラセボ:インスリン グラルギン併用)

インスリン治療中でコントロール不十分な患者475名を対象とした試験です。

有効性:40週後のHbA1c低下幅はチルゼパチド5mg群で-2.11%、10mg群で-2.40%、15mg群で-2.34%(プラセボ -0.86%)と有意(P<0.001)でした。HbA1c 7.0%未満達成率は85〜90%超、体重減少も15mg群で-8.8kgと良好でした。

安全性:主な副作用は消化器症状(下痢、吐き気)で軽度〜中等度が中心でした。低血糖リスクは管理可能で、重篤例は稀でした。

 

 

インスリン治療中でもコントロール不良な患者におけるHbA1c低下の有効性を示したデータです。インスリン群はインスリン量が劇的に増加しているのに対し、マンジャロ群はインスリン量をほとんど増やさせません。

 

SURPASS J-combo試験(日本人患者)

単剤でコントロール不十分な日本人2型糖尿病患者443名を対象とした52週間試験です。

有効性:52週後、HbA1cは5mg群でベースラインから約-2.5%(6.0%まで)、10mg群および15mg群で約-3.0%(5.6%まで)低下しました。体重減少も用量依存的にみられ、15mg群で-10.2kg(-13.2%)と顕著でした。

安全性:消化器症状が主でしたが、全体的に忍容性は良好で、重篤な低血糖はほとんど報告されませんでした。継続投与により症状は軽減する傾向が見られました。

 

日本人でも良好なHbA1c低下作用

 

中性脂肪、LDL-Cは低下、HDL-Cは上昇

 

日本人においても体重減少効果あり

 

日本人を対象としたSURPASS J-combo試験では、本家のSURPASSと同様にHbA1c低下効果と体重減少が得られたことに加え、中性脂肪やLDLコレステロール (悪玉コレステロール)の低下も確認されました。薬剤の幅広い有効性が示されました。

 

 

 


 

 

これらの試験結果は、マンジャロ(チルゼパチド)が幅広い患者背景で優れた血糖改善効果と体重減少効果を発揮し、安全性も良好であることを裏付けています。この薬剤は膵β細胞の機能が残存する若年患者でより効果を発揮しますが、7080歳代の患者さんでも使用するケースが増えてきました。

 

従来の糖尿病治療ではHbA1c高値例で多剤併用やインスリン増量を要するケースが少なくありませんでしたが、GLP-1/GIP受容体作動薬の登場により、これまで困難だったコントロールが可能になりました。心血管イベントリスクの低下、腎機能改善、死亡率低下を示すデータも出始めており、今後はがん抑制効果についても期待されています。このように大きな期待を集める内科領域の薬剤はこれまでになかったと思います。

 

実際の臨床では、個々の患者背景を考慮した使用が重要です。マンジャロに対して不安をお持ちの方も多いかと思います。何かご不明点やご相談がありましたら、当院までお気軽にお問い合わせください。

 

 

学会帰りに寄ったSAにて (何だか惹き寄せられました笑)

 

最後までお付き合いいただきましてありがとうございました!

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME