健診で悪玉コレステロールが高いと言われたらどうする?
健診で悪玉コレステロールが高いと言われたらどうする?
健診でコレステロールや中性脂肪が高いことを指摘され、受診される方は多いです。市中病院に勤務して循環器診療をしていると、悪玉コレステロール (LDL-C)に目が行きがちです。そこでもう一度ガイドラインを確認し、どのように脂質管理を行うのが良いのか考えていきたいと思います。
悪玉コレステロール、つまりLDLコレステロールが高ければ何が問題なのか?
コレステロールも中性脂肪も、体にとって必要不可欠な物質です。コレステロールは細胞膜の主要な構成成分で、脳、肝臓、神経組織などに多く含まれています。LDLコレステロール(悪玉)は肝臓に蓄積されたコレステロールを体中に運びます。それに対しHDLコレステロール(善玉)は血管の壁に溜まっているコレステロールを回収して肝臓に運びます。LDL-Cが過剰な状態が続くと血管内に蓄積するコレステロールが増加します。一方でHDL-Cが低値であれば、それを回収することができなくなります。中性脂肪は、主に体を動かすエネルギー源です。過剰な状態では、脂肪組織や肝臓に貯蔵され、動脈硬化を加速すると言われています。
高いままで放っておくとどうなる?
コレステロールや中性脂肪が高くても、すぐには症状には出てこないないので、健診等で高いと言われてもなかなかピンとこないものです。
しかし、これらの脂質異常は血圧や血糖値と同じく、動脈硬化の進展に大きく影響を及ぼします。やがては血管の詰まりをきたし、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす懸念があります。
過去の研究では、生涯に冠動脈疾患を発症する確率 (生涯リスク)は、45歳の男性のLDL-C 160mg/dL以上 (高値群)で47.2%、160mg/dL未満の群 (低値群)で10.7%と有意な差を認めました。それに対し女性では、高値群で10.2%、低値群で7.1%と有意差は見られませんでした。ちなみに75歳の男性では、44.5% vs 10.7%、女性では7.5% vs 6.4%と同様の結果でした。男性でLDL-C高値の方は要注意です。
ところで、メタボリックシンドロームでは、中性脂肪 (TG)と善玉コレステロール (HDL-C)のみが脂質異常の基準項目となっています。LDL高値は、単独で動脈硬化の強力な危険視因子であるため含まれていません。
これらのことから、脂質異常症をそのまま放置するのではなく、検査結果をきちんと受け止め、データを是正していくことが大切です。(詳細につきましては生活習慣病外来をご参照ください)
コレステロールや中性脂肪の基準値は?
悪玉コレステロール (LDL-C)、中性脂肪 (TG)、総コレステロールが高いほど、また善玉コレステロール (HDL-C)が低いほど、冠動脈疾患や脳梗塞の発症率が高まることがわかっています。それぞれの数値の基準値は以下のとおりです。
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版より
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版では、中性脂肪 (TG)の診断基準として随時(非空腹時)が追記されました。これまで、TGの評価は空腹時採血で行われていましたが、空腹時と随時とではTGの値に乖離があり、随時TGの方が心血管イベントの予測能が高いとする報告があること、実臨床では空腹時採血よりも随時採血の方が実施しやすいなどの理由から、随時TGの基準値が設定されたようです。随時TG 175mg/dL以上を高トリグリセライド血症となっています。
LDLコレステロールは従来通り140mg/dL以上、HDLコレステロールは40mg/dL未満が異常値となります。
善玉コレステロールは気にしなくて良いの?
前述の通り、善玉コレステロール (HDL-C)は血管壁に付着したコレステロールを回収し肝臓へと運びます。そのHDL-Cが低値であれば、やはり動脈硬化の進行に影響を及ぼします。過去の研究で、HDL-C 40mg/dL未満では冠動脈疾患の発症リスクが上昇することが示されています。特にアジア領域では、LDL-CやTGが正常であってもHDL-Cのみが低下している場合でも危険因子となると言われています。さらに日本人の大規模研究で、HDL-C 90mg/dL以上と極端に高い群では、40〜59mg/dLの正常群と比べて、冠動脈疾患や脳梗塞の死亡リスクが有意に上昇する事が報告されました。またHDL-Cは薬剤でのコントロールが難しい上に、低くても、高すぎてもいけないと言われてしまうと、なかなか困ったものです。しかしLDL-Cはより大きなリスク因子となりますので、まずはLDL-Cをきちんと管理していくことが大切です。
どのくらいの数値なら良いの?
LDLコレステロールの管理目標値(目指すべき目標値)は、実は患者さん毎に異なります。したがって、「悪玉コレステロールの値が~と高いから、薬を飲んだ方が良い」と値だけをみて一概に言うことは難しいです。当院では、性別・年齢を含めた患者さん個々の背景因子をみて、内服治療すべきかすべきでないかを総合的に判断しております。
その為には、患者さん毎の悪玉コレステロール (LDL-C)の目標値を知ることから始まります。そのための”1つの”指標として、動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版では、絶対リスクの評価法として新規に久山町研究スコアが採用されました。
まず患者さんの背景ごとに管理目標が異なります。
① 厳格なコントロールが必要な患者さん
冠動脈疾患つまり狭心症や心筋梗塞の既往のある患者さんや、アテローム血栓性脳梗塞(動脈硬化由来の脳梗塞)の既往のある患者さんは、繰り返さないようにするため二次予防の観点から、目標値は100未満と厳しく設定されています。
さらに、その中でも、「急性心筋梗塞や不安定狭心症」・「家族性高コレステロール血症」・「糖尿病」・「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の両者の既往」のいずれかがある患者さんでは、さらに厳しく70未満に設定されています。
リスクの高い患者さんでは再発予防(二次予防)が非常に重要である為、「Lower the better」=低ければ低い程良いという考え方もあります。実際、海外ではさらに低い管理目標値に設定されており、厳格なコントロールが求められています。
② 明確な動脈硬化リスクをお持ちの患者さん
糖尿病・慢性腎臓病・閉塞性動脈硬化症のいずれかがある患者さんは、目標値は120未満となっています。
さらに糖尿病患者さんのうち、網膜症・腎症・神経障害のいずれかの合併症があったり、喫煙している場合には、さらに厳しく100未満に設定されています。
③ その他のコレステロールの高い患者さん
上記以外の患者さんでは久山町スコアでリスク評価し、目標値120未満か140未満か160未満かに分類されます。
久山町スコアは下に示した通りです。
①〜⑥の合計ポイントを計算し、右の表でどの色に相当するか確認します。
右の表の「%」は、10年以内に冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を発症する確率です。
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版
A) 低リスク(水色)の場合は、管理目標値 160未満
B) 中リスク(黄色)の場合は、管理目標値 140未満
C) 高リスク(赤色)の場合は、管理目標値 120未満
となります。
このように悪玉コレステロールの管理目標値は、患者さんによって異なります。
したがって、悪玉コレステロールの治療薬を飲むべきかどうかというよくいただくご質問も、悪玉コレステロールの値だけでは一概に判断できず、患者さん個々の背景をみて判断しております。
悪玉コレステロールが高いと以前から指摘されているが薬を飲むべきか悩んでいるというような患者様がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。