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悪玉コレステロールだけじゃない! 中性脂肪=動脈硬化の隠れた敵

[2025.06.12]

以前、当ブログで高コレステロール血症についてお話ししました。高LDLコレステロール血症(いわゆる「悪玉コレステロール」)は、動脈硬化を進行させ、心筋梗塞や脳梗塞などの発症リスクを高めることが広く知られています。そのため、ガイドラインに基づいた治療介入が行われることが一般的です。

 

しかし、近年の研究により、LDLコレステロールの管理だけでは脂質異常症のコントロールが不十分であり、依然として「残余リスク」が存在することが明らかになっています。その一つが中性脂肪(TG:トリグリセリド)です。本記事では、健康診断でもおなじみの中性脂肪が持つ意義を、脂質異常症の概要とともに解説します。

 

 

脂質異常症とは

人間の体が正常に機能するためには、「炭水化物」「タンパク質」「脂質」の三大栄養素が必要です。このうち、血液中の「脂質」の量に異常が生じる状態を「脂質異常症」と呼びます。脂質には主に「コレステロール」と「中性脂肪」の2種類があります。

 

コレステロール

コレステロールは、細胞膜やホルモンの材料となる重要な物質です。コレステロールには以下の3つの種類があります。

 

  1. LDLコレステロール(悪玉コレステロール)
  2. HDLコレステロール(善玉コレステロール)
  3. non-HDLコレステロール

 

「総コレステロール」は、HDLコレステロールとnon-HDLコレステロールを合わせた値を指します。non-HDLコレステロールには、VLDL(超低比重リポ蛋白)、IDL(中間比重リポ蛋白)、LDLコレステロール(低比重リポ蛋白)が含まれます。

 

 

血液中のコレステロールは、約20~30%が食事から吸収され、残りの70~80%は体内(主に肝臓)で合成されます。食事由来および体内で合成されたコレステロールは、肝臓で管理され、必要に応じて血液中に放出されます。

 

コレステロールは油性の性質を持ち、血液中を移動する際には「リポ蛋白」と呼ばれる「乗り物」に乗ります。このリポ蛋白の一つがLDLで、LDLに乗って移動するコレステロールを「LDLコレステロール」と呼びます。しかし、LDLコレステロールが血管壁に侵入し蓄積すると、動脈硬化が進行します。加齢、喫煙、高血圧、高血糖、腎臓病などは血管壁を損傷させる主な要因であり、LDLコレステロール値が高い場合、血管壁に蓄積するコレステロールの量が増加します。

 

 

一方、「HDLコレステロール」は、血液中の余分なコレステロールを回収し、肝臓に戻す役割を果たします。HDLコレステロール値が高い場合は動脈硬化の進行を抑える効果が期待できますが、低い場合は動脈硬化を進行させるリスクが高まります。

 

 

LDLコレステロールの種類

LDLコレステロールには、さらに細かい分類が存在します。たとえば、活性酸素などにより酸化された「酸化LDL」は、血管壁を傷つけ、炎症を引き起こします。酸化LDLは免疫システムによって異物と認識され、白血球の一種であるマクロファージに取り込まれます。しかし、取り込まれた酸化LDLが多すぎると、マクロファージは「泡沫細胞」に変化し、動けなくなって血管壁にプラーク(粥腫)を形成します。

 

 

また、LDLの中でも分子が小さい「sd-LDL(小型LDL)」は、血管壁に侵入しやすく、肝臓での回収が困難で、酸化されやすい性質を持ちます。このため、sd-LDLは「超悪玉コレステロール」とも呼ばれます。

 

 

その他のコレステロール

一方、HDLコレステロールやLDLコレステロール以外のコレステロールも存在し、これらは「第三のコレステロール」と呼ばれます。これらも血管の健康に影響を与えるリスク因子であり、特に「non-HDLコレステロール」の管理が重要とされています。その中でも、「レムナント」と呼ばれるリポ蛋白は、コレステロールを多く含み、マクロファージに取り込まれやすい性質があります。レムナントはマクロファージを泡沫細胞に変え、プラーク形成を促進するため、「超悪玉コレステロール」とも呼ばれます。

 

 

また、「カイロミクロン」や「VLDL(超低比重リポ蛋白)」は、どちらも大型のリポ蛋白です。カイロミクロンは腸で吸収されたコレステロールを運び、VLDLは肝臓で生成されたコレステロールを運びます。これらが血中に過剰に存在すると、血液が白く濁り、粘度が高まることがあります。カイロミクロンやVLDLが分解される過程でレムナントが生じるため、これらのリポ蛋白が多いと、レムナントの量も増加します。

 

 

中性脂肪(TG)

中性脂肪(トリグリセリド)は、体を動かすためのエネルギー源です。糖質が不足した際にエネルギーを補い、ビタミンA、D、E、Kなどの脂溶性ビタミンの吸収を助けたり、皮下脂肪として体温を保持したりする役割も担っています。しかし、中性脂肪値が高くなると、動脈硬化の進行や糖尿病の発症リスクが高まります。さらに、中性脂肪が極端に高値(≧500mg/dL)になると、急性膵炎を引き起こすリスクが上昇し、命に関わる場合もあります。したがって、急性膵炎の予防の観点からも、中性脂肪値を正常に保つことが重要です。

 

 

以前のガイドラインでは、中性脂肪の診断基準は空腹時TG ≥150mg/dLのみでした。しかし、2022年のガイドライン改訂では、非空腹時(任意時)のTG ≥175mg/dLが追加されました。中性脂肪は食事の影響を受けやすいため、当初、この基準値の妥当性に疑問が呈されていました。しかし、近年の研究により、任意時のTG値の方が心血管イベントの予測に有用であることが示され、この基準は欧州心臓病学会(ESC)および欧州動脈硬化学会(EAS)のガイドラインと整合性が取れた形で採用されました。

 

 

脂質異常症の診断基準

2022年の日本動脈硬化学会のガイドラインに基づく脂質異常症の診断基準は以下の通りです:

 

 

 

脂質異常症の治療

脂質異常症の治療は、生活習慣の改善(食事・運動)を中心とし、必要に応じて薬物療法を併用して数値の正常化を目指します。薬物療法の対象は高LDLコレステロールと高中性脂肪であり、低HDLコレステロールは直接的な治療の対象にはなりません。

 

治療目標値の設定では、「一次予防」と「二次予防」を区別して考える必要があります。一次予防は、疾患の発症を未然に防ぐことを目的とし、生活習慣の改善や健康教育、予防接種などが含まれます。一方、二次予防は、疾患の早期発見・早期治療を通じて重症化や合併症を防ぐことを目的とし、健康診断や定期検査などが該当します。一般的に、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞など)や脳梗塞の既往がある方は二次予防の対象となり、それ以外の方は一次予防を目的とした治療が行われます。

 

脂質異常症のスクリーニング

 

久山町研究のスコアリング

 

非薬物療法

食事療法

①コレステロールを下げる 

▼飽和脂肪酸(赤身肉、バター、乳製品など)やトランス脂肪酸(加工食品、揚げ物など)の摂取を減らす。 

▼食物繊維を多く含む食品(野菜、果物、豆類、オートミール、全粒穀物増やす)。

▼ナッツ類(アーモンド、クルミなど)やオリーブオイルを適量)摂取する。

 

②中性脂肪を下げる

▼糖質(特に精製された炭水化物や砂糖)の摂取を控える。 

▼過度なアルコール摂取(特にビールや甘いカクテル)を避ける。 

▼オメガ3脂肪酸を含む食品(サバ、イワシ、サーモン、チアシードなど)を積極的に摂取する。

 

③共通のポイント 

▼カロリー過多を避け、適正体重を維持する。

▼地中海式食事(野菜、魚、オリーブオイル中心)を参考にする。 

 

 

運動療法

▼有酸素運動:ウォーキング、ジョギング、サイクリング、クリング、水泳などを週に150~300分(例:1日30分×5回)行う。 

▼中性運動は運動により直接的に低下し、HDL脂肪(善玉コレステロール)も増加する。 

▼筋力トレーニング:週2回程度行い、筋肉量を増やして基礎代謝を高める。 

▼継続が重要。無理のない範囲で習慣化する。 

 

 

体重管理

▼肥満(特に内臓脂肪型肥満)は中性脂肪とLDLを増加させる。 

▼BMIを18.5~25(日本人の理想は22)に保つ。 

▼体重を5~10%減らすだけでも脂質の数値が大きく改善する可能性がある。 

 

生活習慣の改善

▼禁煙:喫煙はHDLを下げる、動脈硬化を促進する。 

▼ストレス管理: 

▼ストレスは脂質代謝に悪影響を及ぼす。リラクゼーションや十分な睡眠を確保する。 

▼飲酒制限:中性脂肪が高い場合、飲酒は1日20g(日本酒1合程度)未満に抑える。 

 

 

薬物療法

非薬物療法で十分な効果が得られない場合や、ない場合、心血管例リスクが高い場合(例:心筋梗塞の既往、糖尿病合併など)の場合に、薬物療法が検討される。

 

(1) 中性脂肪を下げる薬 

①フィブラート系薬剤(例:ベザフィブラート、フェノフィブラート): 

  ▼中性脂肪を30~50%低下させる。 

  ▼HDLコレステロールの増加にも寄与する。 

②オメガ3脂肪酸製剤: 

  ▼中性脂肪を20~50%低下させる。 

 

(2) コレステロールを下げる薬) 

①スタチン: 

  ▼DLコレステロールを20~60%低下させる。 

  ▼中性脂肪も軽度低下する。 

  ▼動脈硬化予防に最も推奨される。 

②エゼチミブ: 

  ▼小腸でのコレステロール吸収を抑制。 

  ▼抑制スタチンとの併用でさらなる効果が期待できる。 

③PCSK9阻害薬: 

  ▼LDLコレステロールを50~90%低下させる。 

  ▼高リスク患者(例:家族性高コレステロール血症)やスタチン不耐症患者に使用される。 

 

 

コレステロールと中性脂肪、どちらがより大事?

高LDLコレステロールは、動脈硬化の進行における主要なリスク因子として知られており、積極的な管理が求められます。しかし、中性脂肪はLDLに比べて軽視しても良いものではありません。2016年に発表された研究(Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology, 2016)では、興味深いデータが示されました。

 

 

この研究のポイントを簡潔にまとめます:

 

 

▼縦軸(ΔPAV:プラーク容積の変化率):冠動脈内のアテローム(プラーク)容積の変化を示します。

▼基準値:LDLコレステロールを70mg/dL、中性脂肪を200mg/dLとして分析。

  LDLコレステロールが70mg/dL未満の場合、プラーク量の減少が期待されます。

  さらに、LDLコレステロールが70mg/dL未満 かつ 中性脂肪が200mg/dL未満の場合、プラーク容積がより顕著に減少しました。

▼結論:中性脂肪の高値が、LDLコレステロール以上に冠動脈プラークの進行と関連している可能性が示唆されました。 

 

また、わが国の研究結果からも中性脂肪が高いほどさまざまな心疾患や突然死のリスクが高まることが示されています。

 

 

 

中性脂肪は、身体に必要なエネルギー源ですが、値が高すぎると動脈硬化の進行など健康に悪影響を及ぼします。LDLコレステロールと中性脂肪の両方を適切に管理することで、健康寿命を延ばすことが期待できます。

 

ガイドラインは、脂質異常症の治療における重要な指標です。しかし、患者さん一人ひとりの背景や生活習慣、お気持ちを考慮し、最適な治療方針を立てることが大切だと考えています。脂質異常症に関するご不安やご質問がございましたら、ぜひ当院までお気軽にご相談ください!

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