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2024年6月の1枚 (BILLIE EILISH)

[2024.06.23]

BILLIE EILISH
HIT ME HARD AND SOFT (2024)

私の趣味は音楽鑑賞です。中学1年でビートルズの赤盤・青盤を聴き、以後ロックの世界にどっぷりのめり込みました。それから30年余り、未だ探究心は衰えません。年代を問わず聴きますが、実に3年ぶりのリリースとなったビリーの新作がとても素晴らしかったのでレビューしたいと思います。

発売後幾度となくリピートしていますが、これは非常に筆舌に尽くしがたい深みを持ったアルバムです。彼女の作品は精神的・肉体的苦痛の果てに生み出されますが、今作でビリーは「自分がどういう人間なのか」という極めてシンプルでありながらも難解な問いに対して、極限まで向き合っています。うつ病との壮絶な闘いから、自身の一挙手一投足が世間の憶測を生むことに対する嫌悪感まで、彼女のパーソナリティが凝集しています。

ビリーはわずか22歳にして、自身の音楽がどうあるべきかを悟っているようです。17歳で世界的名声を得たビリーのプレッシャーがどれだけのものだったか、我々には計り知れません。辛辣な批判に苛まれ、ドン底に陥りましたが、ビリーは見事に起死回生を遂げました。今の彼女は自分の経験を隠したり誤魔化さず、堂々と表に出すことができるのです。誰かのためではなく、自分のために人生を生きています。至極当然のことですが、現代人の多くは、膨大な情報で溢れかえる社会の中で見失ってしまっているかもしれません。

表情豊かなA面も良いですが、起伏に富んだ変化を繰り返すB面が非常に素晴らしいです。ボーカルを極度にピッチアップさせる手法は、声色からジェンダーイメージを脱色し、ジェンダーから解放されるための機能を果たしています。クゥイネスを公言したビリーのメッセージとも受け止められます。歳を重ね声質は変化しましたが、ウィスパーボイスはここでも健在で、実に心地よく響きます。言語や文化の壁を超えてシンパシーを感じるのは、音楽と感情が体内で同期し、心を揺さぶるからでしょう。兄フィアニスは妹の人間性を誰よりも理解しており、彼女のパーソナリティを音にする作業に不可欠な存在です。前作で鳴りを潜めていた、クールでソリッド、そしてメランコリーな音の世界にグッと引き込まれます。

本作を通し、自己と向き合う時間が増えました。自分にとって必要不可欠なものが沢山詰まったレコードです。誰しもが共感できる音楽でないかもしれませんが、とてもオススメです。

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