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2025年5月の1枚 (Patti Smith)

[2025.05.11]

Patti Smith

Horses (1975)

 

パティ・スミスの音楽に初めて触れたのは、大学生の時でした、アルバム『Horses』のジャケット写真に、完全に打ちのめされました。当時の恋人であったロバート・メイプルソープが撮影したモノクロのポートレートで、パティは白いシャツに黒いネクタイ、黒いジャケットを肩に無造作に掛けた姿で写っています。パティの姿は、気負わない自信と静かな反逆心を湛え、カメラを射抜く視線は挑戦的でありながらどこか内省的です。無限の可能性に満ちたロック史の中でも特別な一枚だと、直感的に感じとりました。

 

かつて「パンクの女王」と呼ばれたパティですが、彼女の人間性と音楽に対する真摯なアティテュードに強い感銘を受け、未だ彼女の音楽を追い続けています。本日は、パティの金字塔的アルバム『Horses』をご紹介します。

 

ロック史に燦然と輝くパティのポートレート写真

 

『Horses』は、ロックンロールと詩の融合を武器に、音楽史に楔を打ち込みました。パティの詩人としての出自は、歌詞に文学的深みと剥き出しの情熱を与えています。名曲「Gloria」の冒頭の一節、「Jesus died for somebody’s sins, but not mine(イエスは誰かの罪のために死んだ、でも私のためじゃない)」は単なる挑発ではありません。宗教的権威への否定と個の自由への絶対的な肯定を、たった一行で突きつけます。詩の朗読とロックの衝動が交錯するそのスタイルは、ボブ・ディランやジム・モリソンを超え、後のパンクやオルタナティブ・ロックに決定的な影響を与えました。まさに文化の転換点だったのだと後になって気づきました。

 

プロデューサーのジョン・ケイル(元ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)は、このアルバムに危険なまでの生々しさをもたらしています。ケイルらしく商業的な「完成度」を拒絶しています。レニー・ケイの歪んだギター、リチャード・ソールの不協和音を孕むピアノ、そしてパティの時にマイクから外れるボーカル。これらの「不完全さ」が、スタジオ録音とは思えないライヴの臨場感を生みだします。特に「Land」では、即興的で劇的な展開に圧倒されます。パティの声は時に優しく、時に激しく叫びながら、深い感情を叩きつけます。この生々しさはスタジオ録音ながらライヴのような臨場感を生み出しています。USオリジナル盤レコードで聴かれる音は、驚くほどのリアリティに溢れます。

 

音量を限界まで上げると、レコードの魔力が炸裂!

 

1970年代当時、女性ロックスターは性的な魅力やフェミニンなイメージを強調することを期待されていました。パティはそんな枠組みを嘲笑うかのように、ボブ・ディランやキース・リチャーズを彷彿とさせるアンドロジナスな装いを選びました。ネクタイとだらりと掛けたジャケットは、単なるファッションではありません。ジェンダー規範への挑戦であり、女性アーティストが「自分自身」で在るための新たなパラダイムでした。この姿勢は、後の女性ミュージシャン(シンディ・ローパーからPJハーヴェイまで)に自由の道を切り開きました。(『Easter』のジャケット写真もまた、彼女の揺るぎない個性を刻印しています)

 

パティの芸術性と時代感を捉えたプロモーションポスター

 

先月、パティは平和記念公園を訪れました。偉大なミュージシャンたち(過去にはLed Zeppelin, Jimmy Page, Robert Plant, Sting, Thom York, Jack Whiteなど、Marilyn Mansonは資料館で出くわしました!)のこうした行動は、決してセレモニーではありません。社会の不安定さと平和の脆弱さを直視する彼らの姿勢の表れだと思います。歴史はしばしば歪められ、メディアや教科書が「真実」と称するものは、権力の都合で簡単に塗り替えられます。情報が氾濫する現代において、私たちは真実を見極める力を養わねばなりません。彼女の音楽は、思考停止した我々への警告でもあります。

 

『Horses』が描く愛、死、自由、抵抗というテーマは、時代を超えて普遍なものです。リリースから50年、その鮮烈さは薄れません。パティの詩は、生きることの美しさと苦しみを肯定し、「自分自身で在る」ことの意味を突きつけます。 2016年のノーベル賞授賞式で、ボブ・ディランに代わってパティが『A Hard Rain’s A-Gonna Fall』を歌いました。そのパフォーマンスからは、彼女の言葉に込められた深い重みが強く伝わってきました。パティの人間性は、単なるノスタルジーを超え、現代の混沌に立ち向かう力強い武器となっています。

 

極限のプレッシャーの中、心に響くパフォーマンスを披露  (ノーベル賞授与式典)

 

心揺さぶる1枚を、ぜひ聴いてみてください!

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