2026年2月の1枚 (Led Zeppelin)
Led Zeppelin
Led Zeppelin II (1969)
逃げるように過ぎ去る2月下旬、三寒四温と花粉の到来を肌で感じる今日この頃です。相変わらず季節に敏感にいたいものです。本日はLed Zeppelinの大名盤『Led Zeppelin II』をご紹介したいと思います。ぜひ最後までお付き合いください。
絶妙な色合いのUSオリジナル盤レコード (通称:ブラウン・ボマー)
ハードロックの“ブラウン・ボマー”が刻んだ、永遠の衝撃
ハードロックバンドとして、Led Zeppelinの右に出るものは存在しません。ロック好きが唸るリフの宝庫であり、ブルースを基盤としながらもあらゆるジャンルを超越したサウンド。生々しくてセクシーで暴力的でありながら、どこか抒情的なロック音楽、4人の唯一無二の超絶テクニックが炸裂します。
デビュー作『Led Zeppelin』がブルースの残り火を猛烈に吹き上げたのに対し、『Led Zeppelin II』はそれを爆発させました。それでも1969年10月のリリース当時、「ただ一つの重い曲を40分延ばしただけ」と嘲笑されていたと言いますから驚きです。
デビュー作が1969年1月にリリースされた後、バンドは同年1月から8月にかけて欧米で計7回のツアーをこなしています。その過酷なスケジュールの中で、このアルバムを完成させたのです。録音スタジオはロンドンのOlympic / Morgan、LAのMystic / Mirror Sound、NYのA&R / Juggy Sound、さらにはバンクーバーの粗末な“ハット”まで、計10カ所以上に及びました。基本トラックはライブ感覚で一発録り、オーバーダブはツアー先で追加。最終ミックスはジミー・ペイジ(Gt)とエディ・クレイマーがNYのA&Rスタジオでわずか2日で仕上げました。
左からJohn Paul Jones (Bs)、Robert Plant (Vo)、John Bonham (Dr)、Jimmy Page (Gt)
ペイジは「ツアー中の即興が全ての源泉」と語っています。時間の制約がもたらした“即興の強制”が、逆に生々しいエネルギーを生み出したのです。ロバート・プラント(Vo)は後年「多地点録音は最悪だった」と愚痴っていますが、それがまさに『II』の魅力です。ペイジのプロデュース哲学「完璧よりバイブ」がここに凝縮されており、ツアーの汗と性欲とアドレナリンが音に染み込んでいます。
発売から55年以上経った今では、評価はまるで異なります。このアルバムはロックの“重さ”を再定義した金字塔であり、「ロックの産業革命」と呼ぶにふさわしい圧倒的な存在感を放っています。ペイジはリフを“武器”に変え、バンドはツアーの狂騒をそのまま音に変換しました。当時はあまりにも異次元の音世界だったため、理解が追いつかなかったのでしょう。
UKオリジナル盤 (RED/PLUMラベル)
1曲目の「Whole Lotta Love」から度肝を抜かれます。ロック史を代表するリフが炸裂します。ペイジのギターは重戦車のように唸り、プラントは獣のように叫び、ジョン・ボーナム(Dr)のドラムが文字通り地面を揺らします。中盤のサイケデリックな崩壊パート(テルミン+エフェクトの狂気)は、今聴いても鳥肌ものです。1969年にこんなことをやっていたバンドがいたなんて、信じられません。
続く「What Is and What Should Never Be」は、静かなアコースティックパートとダイナミックなエレクトリックパートのコントラストが鮮やかです。降下リフとフランジング・ヴォーカル、ステレオ効果が、リック・ルビンが「ボウを引き絞って放つような」と絶賛するサイケデリアを生み出しています。
「The Lemon Song」はハウリン・ウルフの「Killing Floor」を再構築したもの(ほぼ盗作)です。6分20秒に及ぶブルース・ジャムが中盤でファンクに変貌し、ジョン・ポール・ジョーンズ(Ba)のベースが淫靡に這い回ります。「Squeeze my lemon until the juice runs down my leg」というプラントらしい露骨で背徳的な表現も強烈です。
A面最後の「Thank You」は、唯一の純粋なラブソングです。プラントが妻Maureenへ捧げた感謝の詞に、ジョーンズのハモンドとペイジの12弦ギターが優しく寄り添います。感情的でどこまでも美しいメロディは、翌年の『III』のブリティッシュ・トラッド路線を予感させる一曲です。
USオリジナル盤 (Presswell工場, Mastering by Robert Ludwig)
B面は凶暴化の一途をたどります。ページの切れ味鋭いリフと即興的なギターソロが光るハードロック曲「Heartbreaker」で2度目のハイライトを迎えます。ソロはオーバーダビングなしの一発録りで、エディ・ヴァン・ヘイレンのタッピングの直接的な源泉とも言われます。ボーナムのドラムとジョーンズのベースが力強く支え、プラントのヴォーカルはとても攻撃的です。超高速リフから間髪入れず「Living Loving Maid」へシームレスに流れ込む展開が最高です。ペイジとプラントは好ませんでしたが、キャッチーでポップな名曲です。
「Ramble On」ではぐっとフォークサイドに寄りますが、違和感は皆無です。ジョーンズの抒情的なベースとマンドリンが織りなすメロディに魅了され、プラントの「Ramble on…」の歌い方に胸を抉られます。ペイジのトールキン的幻想世界と“light and shade”の美学の極致、幻想と現実の感情を最も繊細にブレンドした傑作です。
「Moby Dick」はボーナムの裸足ドラム・ソロが光るインスト曲です。スタジオで複数テイクを編集した“構築された即興”は、ライブで20分超に膨張する怪物となりました。
「Bring It On Home」はサニー・ボーイ・ウィリアムソンのブルース曲をアレンジしたハードロック曲です。訴訟続きの彼らですが、原曲からの昇華があまりにも劇的がゆえにただただ圧倒されます。それにしても静と動の落差がたまりません。このアルバムの最後を飾るのに相応しい混乱と喧騒に満ちた1曲で幕を閉じます。
プラントとペイジ (96年)、ジョーンズ (10年) サイン入りジャケット
「ダイナミクス」と「セクシュアリティ」。静と動のコントラスト、プラントの獣のような叫び、ペイジの変幻自在のギターサウンド、ボーナムの“ブラウン・ボマー”低音、ジョーンズの地を這うベース、これらが一つの“重い塊”になる瞬間が無数にあります。
商業的成功も凄まじく、米英ともに1位を獲得。ビートルズの『Abbey Road』を2度引きずり下ろした“ブラウン・ボマー”は、クラブからスタジアムへのロックの商業革命をも体現しました。
Led Zeppelinはレコードで聴くのが一番です。USオリジナルのRL盤(通称Hot Mix)やUKオリジナルのマトリックス2が高評価ですが、私は2005年のClassic Records盤(200g重量盤)が好みです。ランアウトにゆとりがあり、内周の歪みが少なく、大音量でダイナミズムが爆発します。2014年のリマスターも素晴らしい出来です。
Classic Records盤 (Mastering by Bob Clearmountain)
『Led Zeppelin II』は、制作背景を見ても決して“完璧なアルバム”ではありません。ブルースの亡霊が付きまとい、歌詞は時に幼稚です。しかしその“不完全さ”こそが、発売から55年以上経った今でも輝き愛され続けている理由です。1969年のツアー狂騒を凝縮したこの一枚は、今聴いても汗と欲望と純粋なロックンロールの匂いがします。
ローリングストーン誌のJohn Mendelsohn氏が後に書いたように、「800回聴いた後で、ようやく本当の衝撃が来る」のです。ハードロックの雄、Led Zeppelinの永遠の名盤を、ぜひご堪能ください!
