2026年4月の1枚 (その2) (The Who)
The Who
Live at the Oval 1971 (2025)
The Whoは、ビートルズや・ローリング・ストーンズと並び、UKロックを代表するバンドの一つです。4人の持つ強烈なキャラクターと、ミュージシャンとしての個性のぶつかり合いは、他のどのバンドをも圧倒します。ここ日本では格段に認知度が劣りますが、ひとたび彼らの音楽に接すればその凄さを実感することでしょう。特に60年代後半から70年代にかけて生み出された傑作アルバム群もさることながら、彼らのもう一つの真骨頂は、紛れもない「ライブ」にあります。
『Live at Leeds』は、完璧に近い録音状態で4人の超絶的な演奏を隅々まで堪能できる、文字通り「虜になる」ための決定版です。『Live at the Isle of Wight Festival 1970』も素晴らしいのですが、同時代のもう一つの傑作として、近年正式リリースされた『Live at the Oval 1971』があります。 サブスクで何度も聴き込んで満足していた私は、満を持してアナログ盤を購入したのですが、これが大正解でした!本日は、The Whoの全盛期を最も鮮明に記録したこのライブアルバムについてお話しします。
ピートの甥 (Josh Townshend)がデザインしたクールなジャケットに惹かれます!
1971年9月18日、ロンドン・ケンニントンのオーバル・クリケット・グラウンド。 バングラデシュ飢饉救援を目的とした「Goodbye Summer」ベネフィット・コンサートのヘッドライナーを務めた伝説の公演を、オリジナル8トラック・アナログ・テープから丁寧にレストア&リミックスしたのが本作です。
この時期のThe Whoは、のちに代表作となる『Who’s Next』(1971年8月リリース)を発表した直後であり、ピート・タウンゼントの野心作《Lifehouse》プロジェクトが映画化の挫折とバンド内の軋轢により頓挫したばかりでした。 スタジオでの挫折が、逆に「生の闘技場」であるライブでのパッションを爆発的に解放しています。録音を担当した名匠グリン・ジョンズですが、当時の過剰な警備の影響でマイクの再調整がままならず、録音状態は決して良好とは言えませんでした。しかし現代の技術によって、その荒々しさを残しつつ、明瞭度と迫力を飛躍的に高めることに成功しています。
ロックライブアルバムの最高峰 『Live at Leeds』
『Live at Leeds』と並ぶ全盛期の頂点に位置しながらも、本作の最大の特徴は、セットリストに『Who’s Next』からの新曲を5曲も大胆に織り込んでいる点です。大名曲「Baba O’Riley」が収録されていないのは残念ですが、旧曲を「引き裂き」、新曲を「咆哮」させるような過渡期の緊張感が、ライブ全体を熱く駆動しています。
ライブは、ロジャー・ダルトリーの短いオープニング「So Glad To See Ya」で幕を開けると、ライブの定番曲であるエディ・コクランの「Summertime Blues」へと雪崩れ込みます。このカバー曲は、ロジャーの野性的な咆哮とキースのドラミングが炸裂し、単なるレトロ・ロックではなく、70年代ロックの「現在」を宣言する爆発力に満ち溢れています。 続くジョン・エントウィッスルの「My Wife」は、スタジオ版よりも重くルーズに拡張され、終盤のギター・ベース・ドラムの乱舞が圧巻です。ジョンのユーモアと威圧感を併せ持ったヴォーカルが、「このバンドは4人全員が主役である」ことを鮮やかに体現しています。
EUテストプレス盤
ヒットシングル「I Can’t Explain」「Substitute」のシンプルでダイナミックな演奏も安定の素晴らしさですが、本作の聴きどころはやはり『Who’s Next』からの新曲群です。「Love Ain’t For Keeping」はスタジオの柔らかさを剥ぎ取り、荒々しいロックチューンへと変貌。「Bargain」ではピートのギターがリードヴォーカルを引き立てつつ、ジョンとキースの推進力がロジャーの歌をさらに際立たせるダイナミクスが秀逸です。そして「Behind Blue Eyes」と「Won’t Get Fooled Again」では、《Lifehouse》の挫折から生まれた「怒り」と「諦観」が、ライブの舞台で美しく昇華される瞬間を体感できます。これこそが、The Whoという稀代のライブバンドの真髄です。
1971年のUKツアーポスター (ピートのウィンドミル奏法がカッコいい!)
後半は、マーヴィン・ゲイのカバー「Baby Don’t You Do It」のパワフルな演奏で再び熱を上げ、『Tommy』からの「Pinball Wizard」「See Me, Feel Me / Listening To You」へと情感を一気に爆発させます。 「My Generation」は通常の長尺ジャムを封印し、コンパクトながらも激情に満ちた演奏で魅了。「Naked Eye」は7分を超えるブルージーでヘヴィーな拡張版となり、バンドの即興性が光ります。そして最後を飾る「Magic Bus」の9分に及ぶジャムは、ピートとキースによる恒例の「機材破壊」で壮絶に幕を閉じます。
このアルバムの最大の魅力は、やはり4人の「化学反応」に尽きます。 メロディに合わせて歌うように多彩なタムとシンバルを操るキース・ムーン。ベースをリズム楽器ではなくリード楽器として縦横無尽に駆使するジョン・エントウィッスル。リズムギターを基調にしながらアルペジオ、カッティング、パワーコードを自在に操り、風車のように腕を振り回すピート・タウンゼント。そして、喉の奥から魂を絞り出すような直球のヴォーカルでバンドの「顔」となるロジャー・ダルトリー。
The Whoの魅力を最大限に捉えた超絶クールな1枚!
彼らの演奏は、決して「完璧」ではないです。しかしその粗さやミスさえも魅力に変わり、スタジオの洗練とは対極の「ライブならではの喜び」を生み出します。 『Live at the Oval 1971』は、The Whoが「頂点にありながら、常に危ういバランスの上に立っていた」バンドであることを、改めて教えてくれます。
大学生活の最後に一度きりのジャパンツアーを観れて感無量でした(涙)
「Play It Loud」を地でいくような偉大なロックバンドは、耳が驚くほどの爆音にまみれる体現を通じて、その真髄に触れることができます。ロックがまだ世界中で熱狂的に愛されていた時代の、圧倒的な音と情熱の景色。ぜひこのアルバムで、その壮大で生々しい光景に身を委ねてみてください。
