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GLP-1受容体作動薬はSGLT2阻害薬を超える薬剤となり得るか?

[2025.08.11]

これまで当ブログで何度か取り上げてきたGLP-1受容体作動薬ですが、近年さまざまな大規模臨床研究が報告されています。今回ご紹介するのは、米国で行われたセマグルチド(オゼンピック)とエンパグリフロジン(ジャディアンス)を投与された2型糖尿病患者を対象に、死亡率および心血管リスクを比較した研究です。

 

 

SGLT2阻害薬の確かな実績

エンパグリフロジン(ジャディアンス)は、SGLT2阻害薬として発売から10年が経過した薬剤です。当初は糖尿病治療薬として開発されましたが、慢性心不全や慢性腎臓病に対しても明確な効果が認められ、現在では世界中で広く使用されています。私自身も高齢心不全患者に対するSGLT2阻害薬の有効性を研究してきました。最近では、従来の心不全治療にSGLT2阻害薬を追加することで、心不全の増悪や再入院を抑制できることを報告しました (ROSES-HF study)。80歳以上の高齢患者さんでも比較的安全に使用することができて、その効果を大きく期待できる薬剤です。

 

 

セマグルチドの新たな可能性

それに対し今回の研究では、GLP-1受容体作動薬であるセマグルチド(オゼンピック)が注目すべき結果を示しました。本研究は、セマグルチドまたはデュラグルチド(トルリシティ)を投与された患者と、エンパグリフロジンを投与された患者を、傾向スコアマッチングを用いて比較した観察研究です。この手法は、観察データを使って理想的なランダム化比較試験(RCT)を模倣する「標的試験エミュレーション研究」と呼ばれます。

 

 

研究概要

研究対象は、2019年1月1日から2024年12月31日までにセマグルチド、デュラグルチド、またはエンパグリフロジンの治療を開始した45歳以上の2型糖尿病患者です。主要評価項目は、死亡、心筋梗塞(MI)、脳卒中の複合アウトカムで、二次評価項目には死亡または心筋梗塞、心筋梗塞または脳卒中、個々の心血管イベントが含まれます。

 

セマグルチド(7,899名)とエンパグリフロジン(7,899名)の患者を中央値2.2年間追跡した結果、2年時点の複合アウトカム発生率はセマグルチド群で3.7%、エンパグリフロジン群で4.5%、3年時点ではそれぞれ5.9%と6.9%でした。1000人年あたりの発生率はセマグルチド群で21、エンパグリフロジン群で23.6で、ハザード比(HR)は0.89(95%信頼区間:0.78~1.02)でした。個々のアウトカムでは、死亡(HR:0.97、CI:0.81~1.15)、心筋梗塞(HR:0.85、CI:0.68~1.05)、脳卒中(HR:0.62、CI:0.43~0.89)で、特に脳卒中において有意なリスク低下が認められました。一方、デュラグルチドとエンパグリフロジンの比較では、複合アウトカム(HR:1.03、CI:0.90~1.16)および個々のリスクに有意な差は見られませんでした。

 

2群間でのイベント発生率 (死亡、心筋梗塞、脳卒中)

 

セマグルチドの利点と意義

この結果から、セマグルチドはエンパグリフロジンと比較して、死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合アウトカムを低下させる傾向にあることがわかりました。特に脳卒中リスクの有意な低下は注目に値します。比較対象がプラセボではなく、SGLT2阻害薬ですので、この結果には大変驚きました。

 

セマグルチド (オゼンピック)は、GLP-1受容体作動薬として血糖値(HbA1c)の低下に加え、体重減少効果も有しており、血糖コントロールや生活習慣病リスクの軽減を通じて、これらのアウトカム改善に寄与した可能性が考えられます。一方、デュラグルチドでは同様の利点は観察されませんでした。今回はセマグルチドのデータでしたが、チルゼパチド (マンジャロ)など他のGLP-1受容体作動薬でも効果が期待されます。今後さらなる研究による解明に期待が高まります。

 

 

メディアの誤解とGLP-1受容体作動薬の真価

メディアでは、GLP-1受容体作動薬の副作用や、美容目的での不適切な処方に関する問題が強調され、薬剤に対しネガティブな印象を与えがちです。しかし、肥満や生活習慣病に悩む患者にとって、これらの薬剤は大きな恩恵をもたらします。セマグルチドは脳へ作用して食欲を抑え、代謝を促進することで体重減少を促します。さらに、血圧低下や脂質異常の改善により、従来の投薬を減らしたり中止したりできる患者さんも。これまで困難だった生活習慣病の管理に新たな可能性をもたらす薬剤と言えます。

 

生活習慣の改善が鍵

GLP-1受容体作動薬の投与中止後に体重がリバウンドする懸念がありますが、治療期間中に食事量や栄養バランスの改善、また運動習慣を確立することが重要です。当院では、薬物療法だけでなく、その後の生活習慣管理も含めた総合的な指導を行なっています。

 

GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬について不安や疑問をお持ちの方は、ぜひ当院にご相談ください。個々の患者さんに最適な治療法を提案し、健康な生活をサポートします!

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