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虚血性心疾患 (狭心症、心筋梗塞)

狭心症は、類似した病気の心筋梗塞と合わせ、虚血性心疾患と呼ばれています。虚血性とは「血液が不足している」という意味です。虚血性心疾患は、がん・脳卒中と並ぶ日本人の3大死因の一つで、高齢化社会を迎え、患者数は増加の一途です。

狭心症は、塩分や糖分の多い食事・運動不足・喫煙といった生活習慣を見直すことで予防することができます。

狭心症・心筋梗塞とはどんな病気?

冠動脈は、心臓を動かす筋肉である心筋に酸素と栄養分を送る血管で、大動脈から分岐し、心筋を外側から覆うようにして走っています。右冠状動脈と左冠状動脈がありますが、後者はさらに左前下行枝と左回旋枝に分かれます。

狭心症とは、心臓の冠動脈が動脈硬化により狭くなり、十分な酸素や栄養分が届かなくなる病気です。

一方で心筋梗塞は冠動脈が詰まって塞がれた状態です。血管が塞がってしまうと、酸素と栄養分が来ないため、詰まった先の心筋が壊死してしまいます。壊死した心筋は再生しません。したがって、心筋梗塞のほうがより危険で重篤です。胸の痛みや圧迫感は、狭心症では、数分から長くて15分程度と一時的ですが、心筋梗塞では30分以上継続し、安静にしていても治まりません。

かつては、狭心症から心筋梗塞へと進むと考えられていましたが、必ずしもそうではなく、狭心症ではない人が突然心筋梗塞を起こすケースは稀でないことが分かってきました。

狭心症の分類

① 安定狭心症 (労作性狭心症)

階段を上がったり、重いものを持ったり、運動をしたり、心理的なストレスを受けたりしたときに、胸に痛みや圧迫感を覚えます。力仕事や運動をしたり、ストレスを感じたりすると、それに応じて、体内にたくさんの血液を送り出そうと心筋が活発に働き始めますが、血管が細っていて血液供給が追いつかず、胸の痛みなどの症状が出るのです。毎回、ほぼ同じ程度の運動やストレスで生じます。労作とは、日常動作や運動などで体を動かすことです。

② 不安定狭心症

安定狭心症と違い、痛みが強くなる、発作の回数が増える、少しの動作や安静状態でも発作が起こるといった、痛みや圧迫感のパターンが変化します。それまで症状が安定していた人にそうした変化が現われたら、危険です。冠動脈が急速に狭まりつつあることを示している可能性があり、こうした場合は、すぐに救急車を呼ぶか、速やかに医師に連絡をとってください。

③ 冠攣縮性狭心症 (異型狭心症)

就寝中 (特に明け方)など安静にしているときに、突然に胸が苦しくなる発作を起こします。多くの場合、冠動脈が一時的に痙攣を起こして収縮し(この状態を「攣縮[れんしゅく]」と言います)、血流を途絶えさせることによって起こります。症状は数分程度で改善・消失するのが特徴です。

狭心症の原因

狭心症の原因のほとんどが動脈硬化です。動脈硬化とは、高血圧その他のさまざまな要因で血管が柔軟性を失い、硬くなってしまった状態です。動脈硬化が進むと、血管の厚みが増し、血管を狭めます。

また、コレステロール等が溜まって、血管壁の内側に、脂質(脂肪分)から成るコブのようなものができます。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が血液中に増えすぎると、傷のついた内皮細胞(動脈壁を形作っている一番内側の細胞)のすき間からLDLコレステロールが血管壁の内側に入り込み、それを退治しようとする免疫細胞や、その他の細胞も入り込んで、コブのように膨れ上がります。

こうしたコブをプラークと言います(プラークとはアテローム(粥腫[じゅくしゅ])の隆起したものです)。プラークが大きくなって破れると、そこに急速に血の塊 (血栓)ができ、血管が塞がれてしまいます。この状態が心筋梗塞です。

虚血性心疾患のリスク因子

狭心症の前兆は、胸の痛みや、胸が締めつけられるような圧迫感です。しかし、安静にしていれば治まることが多いので、軽く考えて放置してしまう人が少なくありません。胸の違和感や軽い痛み、あるいは胸が締めつけられるような強い痛みが一度でもあったら、狭心症や心筋梗塞を疑って医師に相談したほうがいいでしょう。

以下のようなリスク要因を抱えていると、発症しやすいと言われています。

  • 高血圧症
  • 糖尿病
  • 高脂血症 (脂質異常症)
  • 高尿酸血症
  • 肥満 (外見上は痩せていても内臓のまわりに脂肪が付いている内臓脂肪型肥満:メタボリック症候群もリスク要因の一つです)
  • 喫煙
  • ストレス
  • 家族歴

以上のリスク要因のうち3項目以上当てはまる、男性なら50歳以上、女性なら60歳以上の人は、狭心症や心筋梗塞を発症する可能性が高いので、要注意です。

虚血性心疾患の症状

狭心症の症状は、主に胸の痛みや、締めつけられるような圧迫感です。一般的に、坂道や階段を上ったり、重い荷物を持ったりしたときに、突然、胸が痛くなったり、締めつけられるような圧迫感を覚えます。心臓に負担のかかるような行動をとったときに、症状が出るのが特徴です。

さらに、上記のような動作だけでなく、運動をしたり、心理的なストレスを受けたり、急に寒いところに移動したりしても、同じような症状が出ます。

痛む場所は、主に胸の中央部から胸全体にかけてで、重圧感、圧迫感、絞扼感(締めつけれらるような感じ)を伴います。ときには背中や上腹部、左の腕の内側などが痛むことがあり、また、まれに首や顎に痛みが出ることもあります。呼吸が苦しい、冷や汗や脂汗が出る、吐き気がする、胃が痛むといった症状を訴える人もいます。胆石症(胆管や胆のうに結石ができる病気で、激しい腹痛を起こします)と診断されたのに、実は狭心症だった、というようなケースもあります。

心筋梗塞の場合、上記のような症状が労作に関わらず出現し、30分以上持続して治りません。そのような場合は直ちに救急要請しましょう。

虚血性心疾患の検査・診断

狭心症・心筋梗塞の検査・診断方法は以下の通りです。

① 問診

まずは医師による問診があります。どんなとき、体のどこに、どんな症状が出るのか、痛みや圧迫感はどのくらい続くのか、ほかに持病はないか、血縁の家族に心臓病の人はいないか、といったことを尋ね、概略の状況を把握します。問診のあと、以下の各種検査の中から、医師が適宜取捨選択し、検査を行ないます。

心筋梗塞の場合は、可及的速やかに検査・治療を進めていきます。

② 心電図検査

心電図とは、心臓が電気的にどう活動しているのかをグラフの形に記録するものです。被験者の胸等に電極を付け、安静にしてもらって心電図をとります。この検査をすると、心臓の拍動の状態(収縮・拡張している状態)が把握でき、過去に心筋梗塞を起こしていなかったか、なども分かります。

狭心症では発作が起きてから、病院に行くまでに症状が消失して異常が特定できないことがあります。そのため、狭心症が疑われる場合は、発作時の状態を調べるために、運動をしてもらって心電図を測る「運動負荷心電図検査」を行うことがあります。

③ 心臓超音波検査 (心エコー検査)

心エコー検査とは、超音波(エコー)を使って心臓の状態を探るものです。超音波は、人の耳には聞こえない高い周波数の音波で、これを体に当て、体内の臓器や血液が流れる様子を映し出します。放射線ではないので被曝の心配がなく、妊娠中の女性でも受けられます。心臓の壁の動きに異常がある場合は、虚血性心疾患の原因となる冠動脈の異常が疑われます。

④ 運動負荷試験

安静時ではなく、運動をしながら行う心電図検査です。安静時にとる心電図は、心筋梗塞では特徴的な変化が現われるのですが、狭心症では、発作が起きていないときは、異常が出ないことが少なくありません。発作中であれば異常が現われるのですが、病院に受診するころには、正常な状態に戻っていることが多いのです。そのため狭心症が疑われる場合は、運動をしてもらいながら心電図をとります。被験者は、トレッドミル(ベルトコンベアー状のベルトの上を歩行する器具)や自転車エルゴメータ(スタンド式自転車のペダルをこぐ器具)などを使って運動しながら心電図検査を行います。

⑤ ホルター心電図

ホルター心電計とは、携行型の小型心電計です。胸に電極を貼り付けたままにして、日常生活における心臓の状態を把握します。これを装着すれば、深夜から早朝までの普段測れない時間帯を含めた、24時間の心電図をとることができます。狭心症や不整脈などの診断に有用です。

⑥ 血液検査

血液検査で心筋梗塞を確認することができます。狭心症では血液検査をしても異常は現われないのですが、心筋梗塞では、心筋が壊死する際に心筋細胞から酵素が血液中に漏れ出るので、ダメージの程度を確認することができます。
代表的なものにクレアチンフォスフォキナーゼ(CPK)という酵素があります。心筋梗塞の発作後、4~8時間経ってから血液中に増えてきます。
また心筋トロポニンは、心筋梗塞発症後3〜6時間で上昇し、約2週間は検出可能です。より早期より上昇するため有用な検査です。90~95%の精度で心筋梗塞の診断ができます。

また、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)というホルモンの血中濃度を測定するのも、心不全 (心臓が衰えた状態。心筋梗塞もその原因の一つ)の病態を知るのに有用です。BNPは主に心室から分泌され、心筋を保護する働きをします。心臓に負担がかかったり、心筋が肥大したりすると血中濃度が増します。自覚症状が出る前から濃度が上がるので、心機能低下の早期発見に役立ちます。

⑦ 冠動脈CT検査

かつては、心臓は動きが激しいためCTで撮影することが難しかったのですが、機器が進化し、ごく短時間で心臓の断面を撮影し、三次元画像で表わすことが可能になりました。造影剤を注入して撮影する点はカテーテルを使った「冠動脈造影検査」と同じですが、カテーテル検査では入院が必要なのに対し、CT検査は外来で受けられます。造影剤を使用するためアレルギー反応等の副作用に注意が必要です。

⑧ 心筋シンチグラフィー検査

放射性同位元素(ラジオ・アイソトープ)を体内に注入し、それを標識として心筋の血液の流れを計測するコンピュータ断層撮影です。心臓核医学検査とも言われます。心筋のバイアビリティ(生存心筋)を評価することが可能です。心筋梗塞にて心筋が壊死した部位ではこれらの薬剤は取り込まれません。

⑨ 冠動脈カテーテル検査

冠動脈をX線撮影する検査です。股の付け根や手首等の動脈からカテーテルと呼ばれる細い管を入れ、冠動脈にまで持ってゆき、カテーテルを通して造影剤を注入し撮影します。

虚血性心疾患の治療薬

ニトログリセリン

ニトログリセリンは、狭心症の発作が起きたときに、応急処置として内服する舌下錠です。舌の下に入れて溶かすと、すぐに体内に吸収され、1~2分で発作を抑えます。一時的に血管を拡張させる作用があります。救急用として狭心症には効きますが、心筋梗塞には効果がありません。

抗血小板薬・抗凝固薬

代表的な抗血小板薬はアスピリンです。抗血小板薬は、血を固める作用のある血小板の働きを抑え、血を固まりにくくします。狭心症や心筋梗塞後は、抗血小板療法を一定の期間2剤服用し、その後の内服は単剤 (1剤)となります。心房細動を有する虚血性心疾患患者さんでは近年のガイドラインに準じて抗凝固療法のみの内服となります。

硝酸薬・カルシウム拮抗薬

硝酸薬やカルシウム拮抗薬は、冠動脈を拡張させることで血流の改善が期待できます。

β遮断薬

交感神経に作用するβ遮断薬は、心筋のアドレナリンβ受容体を遮断し、ノルアドレナリンによる心拍数と心収縮力の上昇を抑制して心筋の酸素消費を減少させます。交感神経の作用により心臓の働きが活発になり心拍数が上がっている時に起きる労作性狭心症に有効です。

初期の狭心症では、これらの薬物治療で様子を見てよい場合もありますが、一般的には薬剤だけで軽快することは難しく、カテーテルインターベンションや冠動脈バイパス手術を選択する必要が出てきます。

カテーテル手術 (カテーテルインターベンション、PCI)

カテーテル(細い管)を冠動脈に挿入して行なう手術です。冠動脈造影検査と同様、手や足から動脈にカテーテルを入れ、冠動脈まで持ってゆき、カテーテルの先端に装着したバルーン (風船)やステント(筒状で網目になっているステンレス)を用いて血流を改善します。

ステントを使う場合は、バルーンの先端にステントを折りたたんだ状態で装着し、冠動脈の狭まった箇所まで持っていって膨らませます。

バルーンが膨らむと血管が押し広げられます。その状態でバルーンを萎ませて抜き取ると、血管が押し広げられた状態で維持されます。こうして血流を改善します。

バルーン拡張術

ステント留置術

ステントは血栓を生じる可能性がある欠点があります。血栓ができると、心筋梗塞と同様の状態となり心筋が壊死してしまう懸念があります。現在のステントはステント内に抗癌剤や免疫抑制剤がコーティングされ、血栓ができないように工夫されているステントが使われることがほとんどです。

また同様にそれらの薬剤がコーティングされたバルーンで病変部を拡張し、ステント自体を挿入しないカテーテル治療も近年増加しております。

カテーテル治療のメリットとデメリット

メリット
  • 体にメスを入れないので、外科手術に比べて体への負担が軽い。
  • 数日の入院で手術を済ませることができる。
デメリット
  • 多枝病変 (狭窄部位が複数ある)では特に、外科手術に比べ長期成績が低い。(但し、データによる差異があり、一概には言えない)

冠動脈バイパス術 (CABG)

冠動脈が詰まったり狭くなった部位を迂回して、新たな血管 (バイパス)を繋ぐ手術です。事故で走行できる車線が減り、大渋滞しているとき、脇道 (バイパス)を設けて車がスムーズに流れるようにするのと同じです。

迂回路にする血管を体の別のところから切り取ってきて、一方を大動脈に繋ぎ、もう一方を、詰まったり狭くなった箇所の先に縫い付けます。迂回路用の血管は、以前は足の静脈を用いることが多かったのですが、10年くらいでまた詰まるケースが多いことが分かってきて、胸や胃、上肢の動脈を使うことが多いです。カテーテル治療 (PCI)と比べ、新しい血管を設置するので、血流が完全に改善されるという長所があります。

予防と食事・運動

狭心症の予防は、動脈硬化を起こさないことに尽きます。それには生活習慣の改善が一番大切で、それが発症や再発を防ぐ、なによりの近道です。カテーテルインターベンションや冠動脈バイパス手術を受けたからといって、それで動脈硬化が完治するわけではありません。動脈硬化を呼ぶような生活習慣を続ける限り、いずれ狭心症や心筋梗塞を再発する恐れがあります。

食事

バランスのとれた食事をとりましょう。塩分・糖分・脂肪分の取りすぎは、高血圧・糖尿病・高脂血症を呼びます。肥満・メタボリック症候群は万病のもとです。

運動

運動には無酸素運動と有酸素運動があり、前者は、短距離走や重量挙げのような瞬発力を必要とする運動、後者は、ウォーキングなど呼吸をしながら行なう軽い運動ですが、日ごろの運動としては、無酸素運動は激しすぎます。息が切れない、軽く汗をかく程度の運動で充分に動脈硬化は防げます。少しずつでも、毎日歩くことを心がけてください。

ストレス

発作の引き金になるなど、ストレスも大敵です。完璧主義者で仕事をきちんとやり遂げようとする人ほど、動脈硬化を起こしやすいといわれています。うまくストレスをかわす工夫も大事です。

禁煙

喫煙は、血管を傷つけたり収縮させたりします。さらに、喫煙をすると血圧が上がり脈拍が増えます。また、副流煙は周りにいる人たちにまで健康被害をもたらします。喫煙習慣は断ち切りましょう。

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