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閉塞性動脈硬化症 (ASO, LEADまたはPAD)

動脈硬化は、全身の動脈に起こります。血管壁にプラーク(粥腫)が蓄積し、血管に狭窄(細くなった状態)や閉塞(詰まった状態)を来します。脳の動脈が狭窄・閉塞すると、一過性の脳虚血発作や脳梗塞を起こし、心臓の血管 (冠動脈)が狭窄・閉塞すると、狭心症や心筋梗塞を起こします。手や足の動脈が狭窄・閉塞して栄養や酸素を十分に送り届けることができなくなると、手先や足先が冷たくなったり、筋肉の痛みが出たりします。このような状態を閉塞性動脈硬化症(ASO, LEADまたはPAD)と言います。

閉塞性動脈硬化症の原因

閉塞性動脈硬化症は、誰しも起こりうる病気で、日本人の65歳以上の3.4%で発症していると言われています。リスク因子として、加齢、喫煙、糖尿病、メタボリックシンドローム、高血圧、脂質異常症、冠動脈疾患、脳血管障害、透析などがあります。喫煙者は非喫煙者に比べて発症率が4倍高くなり、また糖尿病も4倍高くなります。日本では、65歳以上の糖尿病患者では12.7%の人が閉塞性動脈硬化症に罹患していると言われています。糖尿病では重症化しやすく、下肢切断を余儀なくされる割合が7倍高くなると言われています。

REACH Registryより

冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患は図のようにオーバーラップします。それぞれの疾患がある場合、約3割の方で他の疾患も認めると言われています。

閉塞性動脈硬化症の症状

無症状の方から、歩行時の臀部や下肢の痛みを自覚する間欠性跛行,安静時の痛みや潰瘍壊死を呈する重症虚血肢まで、症状の幅は広く様々です。Fontaine分類が一般的で、その段階に応じて4つに分けることができます。狭窄や閉塞が悪化すると、段階的に症状が進行します。

Fontaine分類

FontaineⅢ、Ⅳ度で、血行再建術が必要な病態を重症下肢虚血と呼びます。1年後に30%の人が下肢切断、25%の人が亡くなると言われています。

FontaineⅡ度が70~80%を占め、多くは予後良好です。5年後で70~80%は不変、25%の人で跛行が悪化すると言われています。車社会で歩く習慣がない人は跛行症状がなく、最初からFontaineⅣ度で発症される場合が多く、普段からウォーキングなどの習慣を持つことが早期発見のために重要です。

間欠性跛行は閉塞性動脈硬化症の典型的な症状です。鑑別疾患とて、バージャー病、脊椎管狭窄症、深部静脈血栓症が挙げられます。

閉塞性動脈硬化症の検査

診察の際には、初めに触診を行います。鼠径部、膝の裏(膝窩)、足の甲(足背)を触れて拍動を確認します。続いて、次のような検査を行い、評価を進めていきます。

ABI検査(Ankle-brachial Index:足関節上腕血圧比)

足と上腕の血圧を評価します。健康な人は足と腕の血圧はほぼ同じですが、下肢の動脈に狭窄や閉塞があると足の血圧が下がります。ABIが0.9以下だと閉塞性動脈硬化症が疑われます。

動脈超音波検査

足や腕の動脈を、直接超音波で見ることで、狭窄や閉塞を調べることができます。さらに、ドップラー検査を追加すると、血液の流れの状態を詳しく調べることができます。

CT・MRI検査

CTやMRI (MRA)検査は血管の評価や診断に非常に有用な検査です。CT血管造影 (下図の左側)は、その簡便性から広く用いられる検査です。造影剤を用いることでコントラストがつき明瞭となりますが、一方で石灰化があると、その部位の評価が難しくなるのが欠点です。糖尿病がある方や高齢者では臨床的有用性が低下します。

それに対しMR血管造影 (MRA)は、血管壁石灰化は見えず、診断精度を損なうことはありません。しかし、逆に血管壁の石灰化分布を評価することができません。石灰化は治療戦略に影響を与えます。個々の患者さんの背景から検査を選択していく必要があります。

CT (左)とMRI (右): 下肢動脈

血管造影検査

カテーテル造影検査 (下肢動脈)

狭窄や閉塞している場所の近くにカテーテルを入れ、造影剤を注入することで、動脈の狭窄や閉塞の場所や程度が詳しく分かります。カテーテルによる血管内治療につながる検査です。なお、閉塞性動脈硬化症の患者さんは、心臓の冠動脈にも病気のあることが多いので、心臓カテーテル検査を同時に行う場合があります。

 

日本循環器学会ガイドラインより抜粋

閉塞性動脈硬化症の治療

Fontaine分類 (I〜IV度)は、治療を行う上で、重要な指標となります。

I度 (冷感やしびれ感)であれば、経過を観察します。禁煙を厳守し、歩くことを心掛けてください。

II度 (間欠性跛行)がみられる場合には、禁煙を厳守し、生活習慣の改善や薬物療法、運動療法を行います。これ以上の悪化を防止するため、血糖や血圧、コレステロールの管理も重要です。運動療法も効果的です。それでも症状が改善しない、もしくは悪化する場合には血行再建術を考慮します。血行再建術を行うかどうかは、患者さんのライフスタイルによります。例えば、症状があっても身の回りのことができればよいという患者さんであれば、薬物療法を続けるだけでも構いませんが、仕事や趣味でよく歩くという患者さんには血行再建術について相談することになります。

III度 (安静時痛)やIV度 (潰瘍・壊死)がみられる場合には、痛みを取り除くため、また感染を併発して全身状態の悪化を招くことを防止するために、血行再建術が必要になります。血行再建術を行うのが原則ですが、動脈硬化が進んでいると十分な血流を回復させることができないために、切断せざるを得ないこともあります。

禁煙・運動療法

閉塞性動脈硬化症の患者さんでは、禁煙が絶対的に必要となります。たばこに含まれるニコチンは、毒性の強い物質であるばかりでなく、血管を収縮させる作用があります。さらに、血液中の中性脂肪を増加させ、高血圧や動脈硬化の原因になります。

また、下肢の痛みが出現するかしないか程度の運動を定期的に行うことも重要です。医師や理学療法士の指導の下で1日30分以上の歩行訓練を週3回、3ヶ月以上続けると有効であると報告されています。狭窄・閉塞のある血管に周りにある細い血管 (側副血行路)の血流が増えて、症状が緩和されます。症状の改善がある程度は見込まれますが、病状によっては十分でない場合があります。

薬物療法

薬物加療では、抗血小板剤 (血液を固まりにくくする薬)、血管拡張剤などの内服や点滴加療を行います。禁煙や運動療法と同様に症状の改善がある程度見込まれますが、病状によっては十分でない場合があります。

血行再建術

上記の治療で症状の改善に乏しい患者さんに対しては次のような血行再建術を行います。

(A) カテーテル治療 (EVT)

動脈硬化により狭窄あるいは閉塞している血管を、体外から挿入したカテーテルと呼ばれる器具を用いてバルーンで拡げたり、ステントと呼ばれるメッシュ状の金属の筒を留置することによって血管を拡げて血流を確保するものです。局所麻酔で行うことが可能で、患者さんの体への負担が少ない治療です。術後の回復も早く、繰り返し行うことができるメリットがあります。

一方で、一定の確率で再狭窄 (治療した部位が再び狭窄または閉塞してしまうこと)を生じることや抗血小板剤 (血を固まりにくくする薬剤)を長期間服用しなければならないことにより生じる出血性合併症(頭蓋内、消化管からの出血)などの問題があります。

(B) バイパス術

閉塞した血管を迂回させる形で別の血管 (自身の下肢の静脈や人工血管)をつなげ、血液の通り道を作ります。バイパス手術は全身麻酔のもとで血管外科医が行います。本治療はカテーテル治療と比べて、将来の追加治療を要する可能性が低く、病変が関節部などの本治療が不向きな場所に存在する場合でも治療可能である利点があります。一方、傷跡が残る、全身麻酔に耐えられる体力が求められる、入院期間が長くなるなどの欠点があります。

カテーテルかバイパス手術か、どちらを選択するかは患者さんの病状 (間欠性跛行か重症下肢虚血か)や全身状態 (年齢、心臓や腎臓などの重要臓器の状態、その他の併存症の有無など)を総合的に考慮して判断されます。

日本循環器学会ガイドラインより抜粋

最後に

動脈硬化は症状のない間に、徐々に進んでいきます。症状が出現する頃にはかなり進行しています。定期的な評価を行う上でも、血圧脈波検査は、簡便で有用性の高い検査です。気になる方は、ご相談ください。

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