メニュー

不整脈

不整脈とは、心臓の脈拍が正常とは異なるタイミングで起きるようになった状態のことです。不整脈には多くの種類があり、放置して良いものから、命に関わるものまでさまざまです。症状もさまざまで、何も感じない方もいれば、救急車を呼ぶほど症状を強く感じる方もいます。

不整脈の機序

心臓には右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋がありますが、右心房にある洞結節より電気信号が発生することで心臓は動きます。洞結節から発せられた電気信号は、心房内から房室結節を介して心室へと順々に伝播します。この回路を刺激伝導系といいます。電気信号の流れに乱れをきたす、あるいは脈が速くなる (頻脈)、遅くなる (徐脈)、つまり正常と異なる脈の状態が不整脈です。洞結節以外の心筋細胞から電気信号が発生し伝播したものを期外収縮といいます。

心臓の電気信号の流れ (刺激伝導系)

不整脈の症状

不整脈と一言でいっても、症状の程度は異なります。少し脈が飛ぶ程度のものがある一方、突然死を起こすものもあります。不整脈の中でももっとも多いのは、予定されていないタイミングで脈が生じる期外収縮です。期外収縮は、危険性の低い不整脈で、発生しても自覚症状が現れないことがあります。

“頻脈”や“徐脈”にはさらに細かな分類があり、原因もさまざまです。たとえば、スポーツ選手は通常よりも心拍数が遅くなることがありますが、これは病的なものではありません。重篤な不整脈としては、命に関わる危険な心室細動や持続性心室頻拍、トルサード・ド・ポアンツなどがあります。また、徐脈性不整脈では完全房室ブロック、洞不全症候群などがあります。

このような危険な不整脈では、脳への血流が不十分となり、失神やふらつきを起こすことがあります。また、心臓が十分量の血液を全身へと供給できなくなった結果、息切れや呼吸困難などの心不全症状を呈することもあります。さらに、心房細動では、心房内に血栓を形成することがあります。心房内の血栓は血流に乗って全身へ飛ばされる恐れがあるため、脳梗塞の発症リスクも上昇します。

すぐにできる不整脈の見つけ方

不整脈を疑った際は、まず検脈を行いましょう。検脈とは、皮下に触れる動脈を感じながら観察することです。手首の外側を走る橈骨動脈を、反対の手の3本の指で触り、脈のスピードやリズムを観察すると、手短に脈の変化を察知できます。

血圧計にて、脈拍数 (脈のスピード)や脈の不整を確認することもできます。また近年は、スマートウォッチにて不整脈 (特に心房細動)を見つけることができるケースも増えてきています。

それでもなかなか不整脈を捉えることができない場合、以下の検査を行います。

不整脈の検査

① 12誘導心電図

不整脈の検知に最も重要なのが、心電図検査です。不整脈発作中に、12誘導心電図を記録すると、どのタイプの不整脈が起きているのか、診断に大きく近づきます。

② ホルター心電図、携帯心電計

不整脈は、気まぐれなものです。心電図検査にたどり着くまでに、症状が落ち着いてしまうことがあります。そのような時には、ホルター心電図を行います。ホルター心電図は24時間の心電図が記録できますので、その間に不整脈がありましたら、診断に近づくことができます。

また頻度が低い場合は、1週間記録できる長時間ホルター心電図や携帯心電計 (不整脈発作の際に、機器を胸に当てて、心電図を記録できる携帯型心電図)もあります。症状の頻度やタイプに応じてこれらの検査を用いて、不整脈を補足していくことが診断への近道です。

③ 心臓超音波検査 (心エコー検査)

不整脈が原因となり、心臓の機能を低下させたり、構造的な変化をきたすことがあります。心臓の状態を精査する上で、心臓超音波検査は非常に有効です。

④ 血液検査

不整脈が持続すると、心臓に負担がかかり、心不全の増悪につながることがあります。心不全の程度を示すBNPやNT-proBNPを測定することで、心臓のストレスの具合を評価することができます。

また、心房細動などの不整脈では、甲状腺機能亢進症が原因となることがあります。原因精査を進める上でも、血液検査は有用です。

不整脈の分類とその治療

不整脈は上室性 (心房性)と心室性の二つに大きく分けられます。また、徐脈になる不整脈は洞結節や房室結節の異常が原因となります。

① 上室性不整脈

心房由来の不整脈で、心電図で波形の幅 (QRS幅)が狭いのが特徴です。

上室性期外収縮

心房内の心筋細胞から異常な電気信号が出ることで、正常と違うタイミングで脈を打ちます。検脈の際に脈の飛びを認めたら、まずは期外収縮を疑います。頻度に違いはありますが、誰しも認める可能性があります。時として、心房細動などの重大な不整脈につながることがありますので、認めた際は循環器科へご相談ください。

心房細動

加齢とともに有病率が増加し、様々な問題を引き起こす疾患で、不整脈の代表といえます。詳細につきましては心房細動の項をご参照ください。

心房粗動

心房粗動は、心房細動の兄弟のような不整脈で、心房内で電気信号が異常な回路を、ぐるぐると回ることで持続する不整脈です。

心房粗動の大半は、右心房(心臓を分ける4つの部屋の中の1つ)にある三尖弁 (右心房とその下に位置する右心室の間にある弁)の周囲を回るように走る回路ができるもので、このようなパターンの心房粗動を“通常型心房粗動”と呼びます。一方、三尖弁の周囲以外の部位に回路を形成するタイプの心房粗動は“非通常型心房粗動”と呼びます。

非通常型心房粗動は、心臓弁膜症の手術後やカテーテルアブレーション後に起こるケースが多いのに対し、通常型心房粗動は心臓の病気がない場合に発症することが多いとされます。心房細動と同様に、高血圧症、甲状腺機能亢進症、アルコールの多飲、加齢なども発症の要因として知られています。典型的には、上の図 (12誘導心電図の項)のような特徴的なノコギリ状の波形(鋸歯状波;Flutter波)を認めます。

心房粗動は薬剤でのコントロール (洞調律化)が難しく、カテーテルアブレーションでの根治が望まれます。特に大半を占める通常型心房粗動であれば、三尖弁輪部への線状焼灼を行うことで、非常に高い成功率が期待できます。

発作性上室性頻拍

発作的に脈が速くなる上室性不整脈で、頻拍が起こるメカニズムから以下の3つに大別されます。

① 房室結節回帰性頻拍 (房室結節リエントリー性頻拍)

発作性上室性頻拍のなかでも、最も頻度の多い頻拍です。通常、洞結節で生じた電気信号は、心房の房室結節を刺激して心室へと伝わります。房室結節回帰性頻拍では、房室結節内やその付近に生まれつき余分な電気経路があることが原因となります。それらの電気経路内を電気信号がぐるぐると回ってしまい、それが持続することで頻脈性不整脈が起こります。

② WPW症候群 (房室回帰性頻拍)

心房と心室の間は本来1本の電気経路でつながっています。WPW症候群とは、この部分に生まれつきケント束という副伝導路(余分な電気経路)が存在するために、頻脈性の不整脈などが起こる疾患です。WPW症候群では、通常心房から心室へ伝わる電気信号が副伝導路を通って、再び心房へ回帰する房室回帰性頻拍が起こります。

③ 心房頻拍

心房頻拍とは、心房内の一部の心筋細胞が異常な電気信号を発生させることで起こる頻拍です。発生頻度は、発作性上室性頻拍のうち、約1割にとどまります。

これらをまとめて、発作性上室性頻拍と呼びます。発作性上室性頻拍では、頻脈 (脈が速くなる)となるため、動悸を感じるようになります。また、脈が速くなるため、心臓から全身へと血液を送り出すことができなくなります。そのため、立ち上がったときに、ふらつきやめまいを起こしたり、気を失ったりすることもあります。しかし、これらの症状はほとんどの場合、自然に治ります。

発作が生じているとき、息をこらえてぐっとお腹に力を入れたり、冷たい水を飲んだりすると治ることがあります。医療機関でも同様のことを試します。それでも止まらない時は、薬で発作を止めます。血圧が低下している場合は、電気ショックを行うこともあります。

頻度が少ない場合は、頓服薬で様子を見ることもありますが、効果が乏しかったり、頻度が多いあるいは症状が強い場合は、カテーテルアブレーションでの根治を目指します。余分な電気経路を遮断することで不整脈を起こさせないようにさせます。また心房頻拍であれば、電気を発する異常興奮部位を焼灼し電気を発さないようにします。

WPW症候群のアブレーション

発作性上室性頻拍は、幅広い年齢層で見られます。早いと、小学生でも頻脈発作をきたすことがあります。動悸などの胸部症状がありましたら、循環器内科へご相談ください。

洞性頻脈

通常、心臓は1分間に60〜80回 (100回までが正常範囲)のポンプ活動を規則的に行なっています。洞調律からの電気信号が、100回を超えて脈が速くなった状態を、洞性頻脈 (洞性頻拍)といいます。発熱、精神的緊張、アルコール摂取など心臓以外の体の状態を反映していることがほとんどで、健常人に見られます。しかし、甲状腺機能亢進症、貧血、心不全など他の病気が原因で洞性頻脈になることがあり、その際は精査が必要となります。症状の強く出る場合は、β遮断薬などの内服加療を行うことがあります。

② 心室性不整脈

心室由来の不整脈で、心電図で波形の幅 (QRS幅)が広いのが特徴です。上室性不整脈でも、電気信号の伝播障害 (ブロックや変行伝導)が原因となり、QRS幅が広くなることがあります。心室性不整脈の場合、命に直結しますので、早急な対応が求められます。

心室頻拍

心室頻拍とは、心室が通常よりも早いペース(多くは1分間に120回以上)で規則的な興奮をする状態を指します。心室頻拍が生じる状態では、何かしらの原因により、心房からの規則正しい電気活動とは無関係に、心室自身の規則的なペースで活動をするようになります。

心室の電気活動に異常が生じた結果、全身に必要な血液を十分送ることができなくなります。特に持続時間が長い場合(30秒以上)や、心電図において電気活動の形が異なるタイプの(多形性心室頻拍)は、命にかかわる可能性が高いため危険です。一般的に心室頻拍が持続すると、動悸、めまい、ふらつき、失神を起こすことがあります。

心室頻拍は、心筋梗塞、心筋症、心サルコイドーシス、先天性心疾患などの心疾患により発症する「器質性心室頻拍」と、明らかな心臓病がみつからない「特発性心室頻拍」に分けることができます。

器質性心室頻拍は重症度がより高く、心室細動(後述)へと移行して血圧低下から意識消失に至る危険性が高いです。同様の危険性は特発性心室頻拍でもありますが、器質性心室頻拍と比較すると、危険性は比較的低いです。心室頻拍は、意識消失や命にかかわることもある重篤な不整脈のひとつです。そのため、状況を正確に判断したうえで治療方針を決定することが求められます。

症状が続いていれば、心電図検査で診断できますが、症状が出たり治ったりする場合はすぐに診断がつかないこともあります。そのようなときは、長時間の心電図がとれるホルター心電図を行います。

治療の必要性がある場合、薬物治療 (β遮断薬や抗不整脈薬など)、非薬物治療 (カテーテルアブレーション、植込み型除細動器など)を行います。カテーテルアブレーションでは、心臓に入れた細い管の先端から心臓の筋肉の一部へ高周波電流を流して、原因となっている不整脈の回路に通電して焼き切ります。

植込み型除細動器 (ICD)

致死的な不整脈に対して効果があるAED (自動体外式除細動器)と呼ばれる機器が設置されている場所も増えてきていますが、必ずしもタイムリーに使用できるとは限りません。こうした状況を考慮して、危険性の高い心室頻拍を発症するリスクのある方には、植込み型除細動器 (ICD)が適応となり、未然に突然死を予防する対策を行います。

植込み型除細動器とは、致死的な不整脈が出現した際に自動でショックが作動し蘇生できる機器です。体内に植え込むタイプのAEDとも言えます。失神や死に至る危険性を伴う不整脈はいつ生じるか予測できませんので、植込むことで救命できます。

心室細動

心室細動とは、1分間に300回以上、心室がブルブルと不規則に震える状態を指します。その結果、心室が正常に機能しなくなり、全身へ血液供給を行うことができなくなるため、いわゆる心停止の状態となります。数分で呼吸は止まり、血流がないため脳、腎臓、肝臓など重要臓器に障害をきたします。できる限り速やかに対処しなければ、短時間のうちに生命の危機に陥ることがあり、心臓が原因で突然死する疾患として知られています。

心室細動をきたす原因として、心筋梗塞が挙げられます。心筋梗塞は心臓の筋肉に対して血液供給を行う冠動脈が閉塞し、心臓の筋肉へ酸素や影響が供給できない状態を言います。その結果、心室細動をきたして命を落としてしまうのです。一刻も早く救急車にて病院へ到着することが重要となります。近年はカテーテル治療の進歩に伴い、入院後の死亡率は7%程度まで低下しておりますが、病院到着前の死亡率は14%程度と依然として高いのが現状です。

心室細動をきたすその他の疾患として、心筋症 (肥大型心筋症、拡張型心筋症)、重症心不全、Brugada症候群、QT延長症候群などが挙げられます。原因となる疾患がある場合には、いかに心室細動を起こさせないように管理するかが重要になります。

心室細動は発症後数分で命を落とすため、早期の対応が重要です。病院外で突然倒れた人を見かけたときは、救急車の手配と迅速な心臓マッサージ (CPR、心肺蘇生)を行う必要があります。近年はAED (自動対外型除細動器)が普及してきており、AEDを用いることで心室細動の停止が期待できます。医療従事者のみならず一般の方でも使うことができるように、スイッチオンと共にガイダンスが始まります。

心室再度は、倒れてから数分以内で、その後の転帰 (生命予後および機能予後)が決まります。周囲の方 (バイスタンダー)のサポートなくして生存は困難です。医療従事者が近くにいるとは限りません。万が一、そのような場面に遭遇した際は、勇気を持って対応にあたりましょう。

心室細動を繰り返すあるいは再発リスクが高い場合、植込み型除細動器 (ICD)の適応となります。(前述の心室頻拍をご参照ください)

③ 徐脈性不整脈

徐脈 (徐脈性不整脈)は、心臓の正常な電気の流れ (刺激伝導系)の障害により引き起こされます。原因として洞不全症候群と房室ブロックの2つが挙げられます。

洞不全症候群

洞不全症候群とは、心臓の規則的な収縮を司る洞結節 (電気の発電所)の機能が低下して、脈拍が遅くなる (徐脈)病気です。

症状として、めまいや失神が多いですが、無症状でも健康診断などで指摘されることもあります。Rubenstein分類にて、以下の3つに分けられます。

  • Type I:洞性徐脈 (50回/分以下) →脈が慢性的に遅い状態
  • Type II:洞停止 →正常な脈が時折完全に停止する状態
  • Type III:徐脈頻脈症候群 →頻脈性不整脈が停止する際に、洞結節が正常に機能せずに
    数秒間心停止する状態。

原因の大半は加齢に伴う洞結節の機能低下です。また心筋梗塞、心筋症あるいは薬の副作用できたすこともあります。

12誘導心電図で診断できることも多いですが、Rubenstein III型のような場合は、長時間心電図 (ホルター心電図)でないと捉えられないことがあります。徐脈性不整脈治療の第一選択は、植込み型ペースメーカーです。

洞結節の機能を改善させる薬剤はありません。機能低下を助長するような原因薬剤があれば、中止して経過を見ることがあります。徐脈性不整脈の第一選択は植込み型ペースメーカーです。

一般的には、左鎖骨周囲の血管から電極のついたリード線を心臓内に挿入し、ペースメーカー本体につないだ後、本体を皮下に植え込みます。この電極で心臓の動きを感知して、脈が遅い場合には本体から電気刺激が流れて、心臓を刺激して動かすというメカニズムです。ペースメーカーは手術ですが、手術により体にかかる負担は少なく、高齢の方でも植込みを行うことが可能です。手技時間は1〜2時間程度かかりますので、創部へ局所麻酔に加え、静脈麻酔を用いて鎮静下に行う施設が多いです。

ペースメーカー植込み後は、定期的な機械チェックにて詳細に経過を把握することができます。心房細動などの不整脈が偶発的に見つかることがあり、脳梗塞の予防につながります。一般的に電池寿命は7〜10年程度で、電池消耗の際は電池交換が必要となります。

房室ブロック

房室ブロックとは、心房と心室を繋ぐ房室結節 (刺激伝導系の構成組織)の機能低下により、洞結節からの電気信号を心室へ正常に伝播できない状態をいいます。

原因としては、洞不全症候群と同様に加齢に伴うものが多いですが、心筋梗塞や心筋症、心筋炎などにより房室結節が障害されて来たすこともあります。薬剤の副作用も原因となりうります。程度により以下の3つに分類されます。

  • I度房室ブロック →伝導は悪いが心室へは1:1で伝わる
  • II度房室ブロック (Wenckebach, Mobitz type) →心室への興奮が時々途切れる
  • III度房室ブロック(完全房室ブロック) →心室への興奮が完全に途切れる

症状はめまいやふらつきが多いですが、III度房室ブロックでは一時的な心停止に伴う失神を来たすことがあります。また徐脈に伴い心不全を来たすと、息切れや倦怠感を自覚するようになります。

心電図で診断できることもありますが、それだけでは不十分で、長時間心電図 (ホルター心電図)による精査が必要となることも多いです。

洞不全症候群と同様に、薬剤での改善は見込めません。原因となる薬剤の中止で多少の改善は期待できますが、限定的です。II度房室ブロック(Mobitz type)とIII度房室ブロック (完全房室ブロック)がペースメーカー植込みの適応となります。 (ペースメーカー植え込みについては洞不全症候群の項をご参照ください)

植込み型ループレコーダー (ICM, ILR)

植込み型ループレコーダーは、①失神の原因となる徐脈性、頻脈性不整脈の検出、②潜因性脳梗塞の原因となり得る心房細動 (AF)の検出に有用です。従来用いられるホルター心電図や体外式ループ心電計において、発作頻度の少ない不整脈疾患は、短い装着期間内に発症しないことも多いため、検出が困難な場合もあります。植込み型ループレコーダーは、電池寿命までの2~4年間に、連続して長期間の心電図モニタリングが可能なため、従来検出し得なかった発作頻度の低い不整脈疾患の検出も可能です。一定のアルゴリズムを満たす徐脈と頻脈の自動記録のほかに、有症状時に、患者や周囲の人間が手動で心電図を記録することもできます。

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME