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高血圧症

高血圧症は、血圧が高すぎる状態が続く病気です。血圧とは、心臓から送り出された血液が動脈の血管壁の内側を押す力です。

高血圧症をそのままにしていると、心筋梗塞や脳卒中、腎臓病といった重大な病気を招きます。しかし、高血圧という状態だけでは自覚症状に乏しく、一般に、病気であると認識することがなかなかできません。高血圧症が「サイレント・キラー(沈黙の殺し屋)」と呼ばれるゆえんです。ほとんどの高血圧症は、生活習慣を見直すことである程度の改善が期待できます。

高血圧症とはどんな病気?

高血圧症とは、医療機関で計測したときに、上の血圧が140mmHg以上、下の血圧が90mmHg以上になる病気です(mmHgは、日本語では「ミリメートル水銀柱」〔または「水銀柱ミリメートル」〕と読みます)。
自宅で計測する場合は、上の血圧が135 mmHg以上、下の血圧が85 mmHg以上を高血圧症とします。自宅での計測の基準値が5mmHg低いのは、自宅のほうが病院で計測するよりリラックスでき、その分血圧が低めに出るからです。

血管がしなやかで柔軟なときは、血圧は上下とも基準値以下に収まりますが、動脈硬化などで血行が悪くなると、それをカバーしようと、心臓が血液を、よりたくさん強い力で全身に送ろうとするため、血圧が上がります。こうしたことが常態となったのが高血圧症です。

なお、「血圧が140mmHgの値である」というのは、水銀柱を140ミリメートル(14センチメートル)押し上げる力が血管にかかっている、ということです。水銀の重さは水の13.6倍なので、水なら約1.9メートル押し上げることになります。それだけの強い力が血管にかかっているのです。全身のすべての血管に血液の圧力がかかっていますが、通常、血圧と言えば上腕の動脈の圧力を意味し、この上腕で測定します。

「上の血圧」「下の血圧」とは何か

「上の血圧」とは、心臓が収縮し、その力で血液が全身に送り出されるとき、動脈の血管壁の内側にかかる血液の圧力です。収縮期血圧とも呼ばれます。この収縮期、血圧は最も高くなります。一方、「下の血圧」とは、逆に心臓が拡張したときの、動脈の血管壁の内側にかかる圧力です。拡張期血圧とも呼ばれます。拡張期は最も血圧が下がります。

心臓は常に収縮と拡張を繰り返しています。収縮期には、左心房と左心室の間の弁(僧帽弁)が閉じ、大動脈と左心室の間の弁(大動脈弁)が開いて、左心室にある血液が大動脈に送り込まれます。拡張期には、大動脈弁が閉じ、僧帽弁が開いて、肺から左心房に送られてきた酸素の豊富な新鮮な血液が、左心室に流れ込みます。

下の血圧が示す危険信号

上の血圧は正常なのに下の血圧だけが高くなるのも、高血圧症です。動脈硬化によって細い動脈(末梢の血管)が硬くなったり詰まったりすると、下の血圧が上がります。動脈硬化が進んでも、大動脈にまだ柔軟性があると上の血圧は上がらないのですが、細い動脈の硬化は下の血圧に影響を与え、上げてしまうのです。この現象は、高血圧症になりたての人などによく見られます。

下の血圧が下がり上の血圧との差が大きくなっている人も、注意が必要です。上下の血圧の差は50mmHg前後が適正ですが、動脈硬化が進むと、この差が大きくなるからです。大動脈が硬くなって柔軟性を失うと、収縮期に血液を一時蓄積する力が落ち、全身に送り出される血液の量が増えて、上の血圧が上がります。一方、拡張期に送り出される血液の量は減少してしまうので、下の血圧が下がるのです。

高血圧症に伴う合併症

動脈硬化症

常に血圧の高い、張りつめた状態に置かれると、そのストレスから、動脈は次第に厚く、硬くなり、血管の内径が狭くなります。その結果、血液が流れにくくなり、全身の細胞に充分な酸素や栄養分が送れなくなります。こうして、さまざまな臓器に合併症を起こしてしまうのです。

狭心症・心筋梗塞

心臓の冠動脈(心筋に酸素や栄養分を送る血管)が、狭くなったり(狭心症)、詰まったり(心筋梗塞)して、胸に痛みや圧迫感を覚えます。急性の場合、死に直結する危険性があります。

詳細につきましては狭心症・心筋梗塞の項をご参照ください。

脳卒中 (脳出血・脳梗塞・くも膜下出血)

脳の血管から出血したり(脳出血)、血管が詰まったり(脳梗塞)、脳を覆う膜の下部で出血したり(くも膜下出血)します。救命できても、重い障害が残る可能性があります。

大動脈瘤・大動脈解離

心臓から血液を送り出す太い動脈(大動脈)に、コレステロールなどが溜まったコブができ、大きくなったものを大動脈瘤といいます。症状をあまり伴わないことが多く、コブが破裂すると大出血し、命にかかわります。
また大動脈解離は、外側から“外膜”、“中膜”、“内膜”という3つの層で成り立っている大動脈と呼ばれる血管の内膜が裂け、中膜の隙間に血液が流れ込んで血管が縦方向に剥がれるように裂ける(解離する)病気です。

大動脈解離は何の前触れもなく突然に発症するのが特徴で、解離が起こった範囲に応じて胸や背中に強い痛みが起こります。大動脈が解離を起こすと、中膜に血液が流れ込んで血管の壁が非常に薄くなるため、破裂しやすい状態となります。特に心臓に近い部位(上行大動脈)に大動脈解離が発生すると破裂しやすく、破裂した場合は心臓を包む膜に漏れ出した血液がたまる“心タンポナーデ”や、心臓の機能に異常が引き起こされる“心不全”を発症し、発症から間もなくして死に至るようなケースもあります。

また大動脈が解離することで、大動脈から枝分かれする血管の血行が途絶える場合があります。たとえば脳や腸、腎臓などの重要な臓器や心臓の筋肉に血流を送る血管の血行が途絶えると、心筋梗塞、脳梗塞や腎不全など命に関わる合併症を引き起こすことがあります。このような血行障害による症状は、障害を起こした臓器によって大きく異なります。そのため、大動脈の病気とは関連がないと考えられるような症状が現れるケースも少なくありません。たとえば腸への血流が低下することで腹痛や腰痛が引き起こされたり、手足への血流が低下することで手足の冷感や痛みが引き起こされたりする場合があり、まずほかの病気を疑って検査を進めたのちに最終的に大動脈解離との診断にたどり着くことがあります。

これらの病態は高血圧による動脈硬化が原因となることが多いです。大血管が破裂してからでは取り返しがつきません。血圧の管理がいかに大切か痛感させられる疾患です。

心不全 (高血圧性心疾患)

高い血圧にうち勝とうと無理をすることで心臓が肥大し、機能不全を起こします。

詳細につきましては心不全の項をご参照ください。

眼底出血

眼の奥の毛細血管が詰まり、出血します。失明に繋がる恐れがあります。

高血圧症の原因

高血圧症の原因には、生活習慣などの環境的な要因と遺伝的な要因があります。
また血圧の高い状態が続くと、動脈硬化が進んで血管が厚く硬くなり、内径が狭くなって血液が流れにくくなるため、それに負けずに血液を流そうとして、血圧が高くなります。この悪循環も、高血圧症の大きな原因といえます。

① 遺伝的な要因

高血圧症には、遺伝的な側面があります。例えば、両親ともに高血圧症である子どもは約50%、両親のどちらかが高血圧症の場合は約30%で高血圧症をきたすという報告があります。ただし、遺伝と言っても、高血圧の遺伝子異常があるのではなく、体質的な遺伝です。また、食習慣のような生活習慣が親子で似ていることも影響すると言われています。

② 環境的な要因

過剰な塩分摂取

体には体内の塩分濃度を一定に保つ働きがあります。そのため塩分を取り過ぎると、濃度を薄めようと体内に水分が増え、血液量が増加します。その結果、血圧が上昇します。

カリウムを多く含む野菜や果物の摂取不足

体内の余分なナトリウム(塩分を構成する元素)は腎臓から排出されますが、その際にカリウムが不足していると、ナトリウムは充分に排出されません。その結果、血液中の塩分濃度が増加し、それにつれて血液量も増えて、血圧が上昇します。

肥満

脂肪細胞から血圧を上げたり動脈硬化を促進させたりする物質が分泌されます。また肥満により、インスリンの働きが悪くなるとその血中濃度が上がり、交感神経を刺激して血管を収縮させます。特に内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)は要注意です。血液の量は体重に比例するので、肥満は血液量を増やし、心臓にも負担をかけます。

喫煙

タバコの成分のニコチンが、交感神経を刺激し、血圧を上げるホルモンを分泌させて、血管を収縮させます。血液中の活性酸素が増え、動脈硬化を促進します。

精神的ストレス・運動不足

精神的なストレスがかかると、交感神経の働きが活発になり、血管を収縮させ血圧を上昇させます。

また運動不足は血液循環を悪化させ、血圧を上げます。日常的に座ったまま過ごす時間が長い人は、高血圧症になる危険性を抱えていると言えます。

原因からみた高血圧症の分類

本態性高血圧症

遺伝的な体質と生活習慣から生じていると考えられますが、原因をはっきり断定することは難しいです。高血圧症の約9割は、この本態性高血圧症です。

二次性高血圧症

高血圧の原因となる病気がはっきりしているものです。原因として腎臓の病気(腎性高血圧や腎血管性高血圧)、ホルモンの異常(内分泌性高血圧)が多くを占めます。また服用している薬が高血圧を誘発しているケースもあります。血圧を上げる薬としては、甘草[かんぞう]の成分を含む漢方薬や、ステロイド、非ステロイド消炎鎮痛剤などが知られています。

原因疾患 示唆する所見 鑑別に必要な検査
二次性高血圧一般 重症高血圧、治療抵抗性、急激な発症若年発症  
腎血管性高血圧 RAS系阻害薬投与後の急激な腎機能悪化、腎サイズの左右差、低K血症 腎動脈超音波、レノグラム、PRA、PAC腹部CT、MRA
腎実質性高血圧 血清Cr上昇、尿蛋白、血尿、腎疾患既往 血清免疫学検査、腹部CT、超音波、腎生検
原発性アルドステロン症 低K血症、副腎偶発腫瘍 PRA、PAC、負荷試験、副腎CT、サンプリング
睡眠時無呼吸症候群 いびき、肥満、昼間の眠気 PSG検査
褐色細胞腫 発作性・動揺性高血圧、動悸、頭痛、発汗 血液・尿カテコラミン、腹部CT、MRA、MIBGシンチグラフィー
クッシング症候群 中心性肥満、満月様顔貌、皮膚線条、高血糖 コルチゾール、ACTH、腹部CT、頭部MRI、デキサメタゾン抑制試験
サブクリニカル症候群 副腎偶発腫瘍 コルチゾール、ACTH、腹部CT、デキサメタゾン抑制試験
薬剤誘発性高血圧 薬剤使用歴、低K血症 薬剤師用歴の確認
大動脈狭窄症 血圧の上下肢差、血管雑音 CT、MRA、血管造影
甲状腺機能低下症 徐脈、浮腫、活動性減少、脂質・CPK・LDH高値 甲状腺ホルモン、TSH、甲状腺自己抗体、甲状腺超音波
甲状腺機能亢進症 頻脈、発汗、体重減少、コレステロール低値 甲状腺ホルモン、TSH、甲状腺自己抗体、甲状腺超音波
副甲状腺機能亢進症 高Ca血症 副甲状腺ホルモン
脳幹部血管圧迫 顔面痙攣、三叉神経痛 頭部MRI、MRA

高血圧症の症状

多くの場合、症状はありません。血圧が高いことで頭痛やめまい、鼻血などの症状がみられることがあります。

高血圧では、合併症に注意することが大切です。高血圧が持続すると血管が傷ついたり、血管が固くなったりして動脈硬化が引き起こされます。この動脈硬化が進行すると脳、心臓、腎臓、眼などのさまざまな臓器に障害が起こり、脳卒中や心筋梗塞といった死に至る重篤な病気の発症につながります。

また、心臓や腎臓の機能が徐々に低下して心不全や腎不全に至ると、呼吸困難や全身のむくみ、不整脈、貧血などを生じ、死に至ることも少なくありません。

高血圧症の診断

高血圧では、血圧を継続して測定することが大切です。血圧は時間とともに変動するため、診察室や家庭など、さまざまな環境で血圧を測定することが求められます。

家庭血圧がより重要であるとされていますが、診察室で測定した血圧が140/90mmHg以上、家庭で測定した血圧が135/85mmHg以上である場合に高血圧となります。

二次性の高血圧が疑われる際には、超音波検査やCT検査、MRI検査、血液検査、尿検査なども検討されます。

成人における血圧値の分類(mmHg)
分類 診察室血圧 家庭内血圧
収縮期血圧
(最高血圧)
拡張期血圧
(最低血圧)
収縮期血圧
(最高血圧)
拡張期血圧
(最低血圧)
正常血圧 <120 かつ<80 <115 かつ<75
正常高値血圧 120~129 かつ<80 115~124 かつ<75
高値血圧 130〜139 かつ/または80〜89 125〜134 かつ/または75〜84
I度高血圧 140〜159 かつ/または 90〜99 135~144 かつ/または 85〜89
II度高血压 160〜179 かつ/または 100〜109 145〜159 かつ/または90〜99
III度高血圧 ≧180 かつ/または≧110 ≧160 かつ/または≧100
(孤立性)収縮期高血圧 ≧140 かつ<90 ≧135 かつ<85

※赤字部分が一般的にいう高血圧(日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」より)

血圧からみた高血圧症の分類

① 持続性高血圧

医療機関で測っても自宅で測っても、いつも血圧が基準値よりも高くなります。

② 白衣高血圧

医療機関では緊張して血圧が高く出るのに、自宅で測ると正常な値になります。医師や看護師が白衣であることが多いので、こうした状態を白衣高血圧と呼びます。多くの場合、将来的に持続性高血圧に移行すると考えられています。

③ 仮面高血圧

白衣高血圧とは逆に、仮面高血圧とは医療機関では正常なのに、自宅で測ると基準値より高くなります。医療機関では仮面をかぶり、本当の顔を見せない、という意味のネーミングです。

仮面高血圧は、さらに夜間高血圧、早朝高血圧、ストレス性高血圧に分類されます。自宅での血圧高値が続くときは、朝晩での推移を記録して医療機関へ相談ください。

治療薬の種類と副作用

薬の種類 作用 主な副作用
カルシウム拮抗薬 血管を広げて血管抵抗を低下させ血圧を下げる 顔の紅潮、動悸、頭痛、火照り、めまい、むくみ
アンギオテンシン変換酵素阻害薬 (ACE阻害薬) アンギオテンシン変換酵素を阻害することで、血圧を下げる 痰を伴わない空咳
アンギオテンシンII受容体遮断薬 (ARB) 血管を収縮させるアンギオテンシンIIの作用を抑えることで血圧を下げる 動悸、めまい、頭重感
アンギオテンシン受容体ネプライシン阻害薬 (ARNI) アンギオテンシンIIおよびネプライシンの働きを抑えることで血圧を下げ、心臓の負担も軽減する 動悸、めまい、咳、血管浮腫
利尿薬 水分の排泄を促すことで血中の水分量を減少させ、血圧を下げる 低K血症、低Na血症、高尿酸血症
β遮断薬 心臓のβ受容体に作用し、心臓の拍動数を抑制することで血圧を下げる。 徐脈、ふらつき
α遮断薬 血管の収縮を抑えることで血圧を下げる めまい、頭痛、眠気

高血圧症ではこれらの薬剤を用いて治療を行なっていきます。降圧作用は薬剤によって異なり、また副作用の出現についても個人差があります。

当院では個々の患者さんの病態に応じて適切な治療を心がけております。詳細につきましては高血圧治療(降圧剤の選び方)をご覧ください。

高血圧症の改善対策

高血圧症の改善対策は、生活習慣の見直しが大切です。

① 塩分は控えめに

塩分を取り過ぎると、体内に水分が蓄積して血液量が増し、血圧を上げてしまいます。1日の摂取量は6グラム未満を目標にしましょう。

② 野菜や果物の摂取を心がけましょう

腎臓から塩分(ナトリウム)や水分を排出するには、野菜や果物などに多く含まれるカリウムが必要です。野菜や果物を積極的にとりましょう。ただし、腎臓病のある人は高カリウム血症になる恐れがあり、糖尿病や肥満の人は糖分の多い果物はかえって害となるので、医師とよく相談して摂取するようにしてください。

③ 油ものの摂りすぎに注意を

コレステロールや飽和脂肪酸の摂り過ぎは、高脂血症を招き、動脈硬化を進めます。どちらも、レバーなどの内臓類や肉類などに多く含まれています。魚や植物油に含まれる不飽和脂肪酸は、動脈硬化の予防に効果があると言われています。脂質を取るときは、できるだけ魚などから取るようにしましょう。

④ 禁煙しましょう

タバコをすうと、血管が収縮し一時的に血圧が上がるだけでなく、血流を悪くし、血液を固まりやすくします。周囲の人に副流煙の被害ももたらすなど、百害あって一利なしです。高血圧を改善したいなら、禁煙することをおすすめします。

⑤ 運動習慣をつけましょう

軽い運動は血行を良くし、肥満防止にもつながります。短距離走や重量挙げといった無酸素運動(息を止めて行なう、瞬発力を要する運動)ではなく、散歩、自分のペースでのジョギング、ラジオ体操といった軽い有酸素運動(充分に酸素を取り込みながら行なう運動)がお勧めです。1日30分以上を目標にしてください。

⑥ 肥満を解消しましょう

太り過ぎは、血圧を上げるだけでなく、心臓にも負担をかけ、全身の動脈硬化を促進します。体格指数と呼ばれるBMI(体重〔kg〕÷身長〔m〕÷身長〔m〕)が、25以下となるようにしましょう。特に内臓脂肪型肥満(メタボリックシンドローム)は血圧上昇と関連が深く、要注意です。

⑦ ストレスを減らしましょう

ストレスは血圧の大敵です。若い人でもストレスで高血圧症になるケースがよくあります。几帳面な性格の人ほど高血圧傾向にあります。趣味を楽しむ時間を増やすなど、うまく発散する方法を見つけることも大切です。

⑧ 睡眠をしっかりとりましょう

規則正しい生活は、過労やストレスを防ぎます。充分な睡眠をとり、心にゆとりを持ちましょう。仕事のし過ぎ、夜更かしは禁物です。

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