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副院長の執筆した論文がヨーロッパ心臓病学会の心不全誌へ掲載されました!

[2024.10.02]

心不全に対するSGLT2阻害薬の効果を検証した論文が、ヨーロッパ心臓病学会の心不全誌 (ESC Heart Failure)に掲載されました。少し分かりにくい内容も含みますが、ご拝読頂けましたら幸いです。

 

SGLT2阻害薬は、近年最も注目されている薬剤です。当初は糖尿病治療薬として認可を受けましたが、その後心不全や腎不全の増悪を抑制する効果が明らかになり、適応が拡大しました。

 

心不全と診断される高齢患者さんは多くいらっしゃいますが、果たして心不全の何が問題なのでしょうか?それは下の図のように、心不全が増悪と寛解を繰り返しながら寿命を縮めてしまうことにあります。それゆえに、いかに心不全を増悪させないか、その点が心不全治療の最大の鍵となります。

 

心不全とその進展ステージ (厚生労働省 2017より改変)

 

心不全治療薬は多種多様ですが、体液コントロールの観点からSGLT2阻害薬は、とりわけ優れた薬剤といえます。これまで様々な視点から薬剤の効果が示されていますが、これまでの研究では、一度きりの心不全イベントを評価したものしかありません。つまり、心不全は繰り返し引き起こされるという重大な問題点が見逃されているのです。長期的な心不全管理を行う上で、果たしてこれで十分な評価と言えるでしょうか?

 

今回の研究にて、SGLT2阻害薬が、心不全増悪による再入院回数を減少させる可能性があることが分かりました。これはある程度予想しうる結果でありましたが、データとしてきちんと示せたことに意義があり、非常にインパクトのあるアウトカムだと思います。研究名をOASIS-HF studyと名付けましたが、響きも良いかと英国バンドのオアシスにちなんで付けました。(奇しくも再結成と重なり驚きました)

 

 

 

広島総合病院と尾道総合病院へ通院中の高齢患者さん (75歳以上)を対象に、SGLT2阻害薬の長期的な心保護効果を評価しました。SGLT2阻害薬は、もともと糖尿病治療でしたが、その後心不全や腎不全の悪化を抑制することが明らかになり、現在では多くの患者さんに使用されています。世界中のガイドラインは、60〜70歳をターゲットに作成されていますが、高齢化が進む先進国では、80代はおろか90代の超高齢患者さんの心不全管理が求められます。心不全は増悪と寛解を繰り返しながら徐々に悪化をきたしていく病気で、心不全増悪による再入院を抑えることが非常に大切です。

 

SGLT2阻害薬を用いることで、心機能に関わらず、心臓死、心不全による入院、あるいは救急受診の頻度を大幅に抑制できることは、これまでの大規模臨床研究で示されております。しかしながら、繰り返す心不全再入院をどこまで抑制できるかに関するデータはありませんでした。

 

本研究の平均年齢は83歳で、361人の患者さんで解析を行いました。約2年の追跡期間において、従来の標準心不全治療と比較して、SGLT2阻害薬を内服した群では、心不全による再入院と心血管死をきたすリスクが有意に低下する結果でした。(図1) (心不全による再入院と心臓死のイベント率:標準治療群vs. SGLT2阻害薬 35.4% vs. 22.1%, P=0.012)

 

     図1

 

この結果は、60代の患者さんを対象とした過去の大規模臨床研究と同様で、高齢者でも長期的に効果を発揮することがわかりました。続いて繰り返す心不全再入院の回数について評価しました。

 

少し分かりづらいですが、100人当たりの年間の再入院回数は、従来治療群で22回/年に対し、SGLT2阻害薬群では14回/年と大幅に低下することが分かりました。(P=0.019) 図2は1年あたりの心不全入院回数を示していますが、全く入院のなかった患者さんは従来治療群で68%に対して、SGLT2阻害薬群で77%と、入院の頻度が低下することも分かりました。1年の間に何度も入退院を繰り返す患者さんもいますが、SGLT2阻害薬を内服している群ではそれが少ない傾向にあります。

 

                                                                                      図2

 

また心腎連関という言葉があるように、腎機能の悪化を抑えることも心不全の観点から非常に重要です。腎不全を有する患者さんの1年間の腎機能 (eGFR)の推移を見たところ、SGLT2阻害薬は大きな腎臓保護効果を発揮することが示されました。 (図3)

 

図3

 

腎機能に関しましては、DAPA-CKDをはじめとした大規模臨床研究ですでに示されておりますが、重要なことは適切な薬物加療を行なっている状況下でも、これだけの効果を発揮することにあります。我が国の心不全治療薬にサムスカ (トルバプタン)という利尿薬がありますが、この薬剤にも腎保護効果があります。(2023年に心臓病誌「International Journal of Cardiology」で報告しました) 非常に優れた薬剤で、日本中で広く用いられていますが、世界では全く評価されていないという悲しい現実があります。本研究では、約半数の患者さんでサムスカが用いられております。両群間で同程度に使用されておりますが、そのような背景であってもこれだけの効果を発揮しており、非常に驚く結果でした。この観点からも、慢性腎臓病の患者さんへ使用を強くお勧めできる薬剤です。

 

実はサムスカに関する論文も海外の雑誌へ投稿中ですが、なかなか正当な評価を受けることができません。これまでの使用経験と日本での使用状況を考えますと、もっと評価されて然るべき薬剤であることに疑いの余地はありません。悔しい気持ちを堪えつつ、いつか日の目を迎えられるよう努力を続けていきたいと思います。

 

当院では、基幹病院と連携しながら心不全治療を行なっております。長期的に心不全を管理する上で、専門性は重要と考えております。これまでの臨床経験と私自身がこれまで出してきた研究データを基に、患者さんが安心して生活できるようサポートさせて頂きます。何かございましたら当院までご連絡ください。

 

最後に、いつもサポートしてくださる中野教授、広島総合病院の荘川先生、尾道総合病院の木下先生へ厚く御礼申し上げます。

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