帯状疱疹ワクチンの定期予防接種について
2025年4月1日より、帯状疱疹ワクチン(シングリックスおよびビケン)が定期接種として位置づけられました。広島市においては、予防接種券の送付が7月から開始され、接種自体も7月以降に開始となる予定です。当院に通院されている患者様の中でも、帯状疱疹を経験された方が予想以上に多くいらっしゃいます。統計によると、80歳までに約3人に1人が発症すると言われております。このような背景からも、予防が非常に重要であると考えられます。本日は、帯状疱疹についてお話をさせていただきます。
帯状疱疹とは?
帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)によって引き起こされる急性の皮膚疾患です。このウイルスは、子どもの頃に水痘(水ぼうそう)を発症した際に体内に潜伏し、通常は神経節に長期間潜伏しています。加齢、疲労、ストレス、免疫抑制状態などにより免疫力が低下すると、ウイルスが再活性化し、帯状疱疹として発症します。
発症率はどのくらい?
日本人の成人の90%以上がVZVに感染済み(水痘既往または潜伏感染)と考えられており、50歳代から発症率が上昇し、50歳以上で急増し、70歳代でピークを迎えます。80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を経験するとされています。特に高齢者や免疫不全状態の人(HIV感染者、抗がん剤治療中など)でリスクが高まります。女性の発症率がやや高い(1.2~1.5倍)。これは女性の免疫老化やホルモン影響が関与する可能性が指摘されています。
症状は?
初期症状(前駆症状)
発疹が現れる数日から1週間ほど前に、体の片側(通常は神経の走行に沿った領域)に違和感や異常を感じることがあります。ピリピリした痛み、チクチク感、かゆみ、または灼熱感が特徴的です。この段階では発疹がないため、他の病気(筋肉痛や内臓疾患など)と間違われることもあります。
発疹と水疱
皮膚に赤い発疹が現れ、次第に小さな水疱(水ぶくれ)に変化します。
発疹は通常、体の片側だけに現れ、帯状に広がるのが特徴です。胸や背中、顔、腕などに沿って広がります。胸部(肋間神経領域)が最も多く(約50%)、次いで顔面(三叉神経領域)、腰部、頸部に見られます。複数領域や両側性はまれです。水疱は数日で膿を含むようになり、その後かさぶたになって治癒に向かいます。
疼痛 (神経痛)
帯状疱疹の最も特徴的な症状の一つで、発疹の出現とともに強い痛みを伴うことが多いです。痛みの程度は軽いものから耐え難いものまで個人差があります。特に高齢者では、発疹が治った後も帯状疱疹後神経痛(PHN)として痛みが長期間残ることがあります(50歳以上の約2割に発症)。
その他の症状
発熱、頭痛、倦怠感などの全身症状が伴う場合もあります。
顔に発症した場合は、目や耳に影響を及ぼすことがあり、顔面神経麻痺や難聴(ラムゼイ・ハント症候群)あるいは視力(角膜炎)に問題が生じることもあります。
治療法
帯状疱疹の治療は、症状の軽減と合併症の予防を目的に行われます。早期治療が重要で、特に発疹出現後72時間以内の抗ウイルス薬投与が推奨されます。
- 抗ウイルス薬
薬剤: バラシクロビル(バルトレックス)、ファムシクロビル、アシクロビルなど。
効果: ウイルスの増殖を抑え、症状の期間を短縮し、帯状疱疹後神経痛への移行リスクを低減します。
投与タイミング: 発疹出現後できるだけ早く、遅くとも72時間以内に開始することが効果的です。
- 鎮痛薬
軽度な痛み: アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)。
強い痛み: 神経障害性疼痛に対してはプレガバリンや三環系抗うつ薬が使用されることもあります。
- 対症療法
皮膚症状: 水疱を清潔に保ち、二次感染を防ぐために外用薬(抗菌薬軟膏など)が使用される場合があります。
神経痛: 必要に応じて神経ブロックや理学療法が行われることもあります。
- 合併症への対応
帯状疱疹後神経痛: 長期間痛みが続く場合、ペインクリニックでの専門治療が必要になることがあります。
眼症状: 目に帯状疱疹が及んだ場合は、眼科医による緊急治療が必要です。
予防としてのワクチン
帯状疱疹の発症や重症化を予防する最も効果的な方法はワクチン接種です。日本では「シングリックス」と「乾燥弱毒生水痘ワクチン(ビケン)」が使用されており、特にシングリックスは高い有効性が報告されています。
接種する予防ワクチンには2種類あります。
それぞれ違いがありますので、接種を希望される際には、医師に相談して選択してください。
当院では、有効性の観点から「シングリックス」のみを扱っています。
各ワクチンの特徴は以下の通りです。
浅草クリニックホームページより引用
1)国立感染症研究所, IASR Vol. 39 p133-135: 2018年8月号
※1 国際共同試験Shingrix Zoster-006・022・049試験
※2 ZostavaxのSPS試験(50歳代はZEST試験)国内での有効性について試験を行っていないため、本質的に同じワクチンとされているZostavaxの試験結果から引用
※3 Engl J Med,352:2271-2284,2005
※4 Clin Infect Dis. 2012;55(10)1320-1328
発症予防効果は、シングリックスが大きく上回ります。ビケンでは、歳を重ねるごとに有効性が低下し、80歳以上ではほとんど効果を発揮しません。それに対しシングレックスは一貫して高い有効性を維持します。効果持続時間はビケンで3〜5年、シングレックスで10年です。シングレックスは筋肉注射ですので、接種部の痛みは多くの方に見られます。費用が大きく異なりますが、有効性を考えますとシングレックスが望まれます。(費用につきましては下記をご参照ください)
定期接種対象者
日本では、2025年4月1日から帯状疱疹ワクチン(シングリックスおよびビケン)が予防接種法に基づくB類疾病として定期接種に位置づけられました。広島市での予防接種券の送付は7月となりますので、接種開始は7月以降となります。対象者は以下の通りです。
- 65歳の方
年度末時点で65歳となる人(例: 2025年度であれば1960年4月2日~1961年4月1日生まれ)。
広島市での接種費用は、組換え不活化ワクチン(シングリックス)は2ヶ月あけて2回接種が必要で、18100円x 2回(合計36200円)となります。生ワクチン(ビケン)は、1回接種で接種料金は4900円です。
- 60~64歳で特定の条件を満たす方
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害があり、日常生活がほぼ不可能な人(身体障害者手帳1級相当)。
医師の診断書や証明書が必要。
- 経過措置対象者(2025年度~2029年度の5年間)
その年度内に以下の年齢に達する人: 70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳。
例: 2025年度なら1955年度生まれ(70歳)、1950年度生まれ(75歳)など。
特例: 2025年度に限り、100歳以上の方は全員対象。
接種の受け方
広島市内に在住の方のみが対象となります。
電話予約(082-277-1937)の上、以下を持参ください。
- 予防接種券、予診票 (2025年7月を目処に送付予定)
- マイナンバーカードや保険証などご本人確認ができるもの
- 自己負担金 (シングリックス:18,100円 x2回)
注意点
過去の接種歴: 既にシングリックス(2回)またはビケン(1回)を自費や公費で接種済みの人は定期接種対象外となります。
水痘・帯状疱疹の既往: 過去に水痘や帯状疱疹にかかったことがあっても定期接種の対象となります。再発予防にも効果が期待されます。
その他の対象者(任意接種)
定期接種対象外の50歳以上の方や、18歳以上で帯状疱疹リスクが高いと医師が判断した人(例: 免疫抑制治療中、移植患者など)は、シングリックスを自費(20,000円x2回, 税抜)で接種可能です。
帯状疱疹は免疫力低下によって発症し、特に高齢者で重症化や合併症のリスクが高い疾患です。治療は抗ウイルス薬と対症療法が中心ですが、予防にはシングリックスなどのワクチン接種が非常に有効です。日本では2025年4月から65歳以上を中心に定期接種が始まり、高齢者の生活の質向上に寄与することが期待されます。ご希望の方やワクチンに関して気になられる方はお気軽に当院までご連絡ください。