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私がマンジャロ (チルゼパミド)に注目する理由

[2025.05.06]

マンジャロ(チルゼパチド)は近年注目を集めており、さまざまな場面でその名前を耳にします。私は流行に流されるのが苦手で、通常であれば新しいものに積極的に飛びつくことはありません。しかし、私がマンジャロに注目する理由についてお話ししたいと思います。

 

SGLT2阻害薬は、2014年に日本で糖尿病治療薬として承認されましたが、現在では慢性心不全や慢性腎臓病にも適応が拡大され、広く使用されています。この薬剤は心臓や腎臓の生命予後を改善する顕著な効果があり、医療現場で高い評価を受けています。

 

2019年のDAPA-HF試験では、ダパグリフロジン(フォシーガ)が左室駆出率(EF)の低下した慢性心不全患者の心血管死や心不全入院のリスクを有意に低下させることが示されました。当時、先輩医師が糖尿病を合併した急性心不全患者にこの薬を使用し、従来の治療とは異なる優れた利尿効果を確認しました。私は当初、慎重な立場でしたが、その効果に魅了され、急性心不全患者への投与を開始しました。なお、当時は糖尿病の適応のみで、心不全に対する適応はまだありませんでした。

 

山下武志先生に取り上げてもらいました

 

その後、蓄積されたデータを基に、2022年に急性心不全患者におけるSGLT2阻害薬の有効性に関する論文を『International Journal of Cardiology』に発表しました。2021年10月のEMPEROR-Preserved試験では、EFが保たれた心不全患者に対するエンパグリフロジン(ジャディアンス)の有用性が示され、欧米のガイドラインで推奨されるようになりました。しかし、日本では2025年3月の心不全ガイドライン改訂まで、EFが保たれた患者への推奨レベルがClass Iに引き上げられませんでした。あまりにも遅すぎますが、これが日本の現実です。ガイドラインを越えての薬剤使用にはさまざまな面でのリスクを伴いますが、その薬剤の有効性と安全性を十分に考慮した上で使用していくことの重要性を実感してきました。今では、使用しないことが罪とばかりに強く推奨されています。

 

話をGLP-1受容体作動薬に戻します。日々の診療の中で、マンジャロの有効性を実感させられています。糖尿病薬を4剤使用してもコントロール不良であった患者さんのHbA1cが正常化したり、体重減少に伴い肝機能や脂質異常が正常化する方もいます。ここまで生活習慣病が劇的に改善をもたらす薬剤は経験がありません。

 

先日、肥満症に対してマンジャロを使用している先輩医師(前述の同じ医師)から、心不全患者におけるマンジャロ (チルゼパミド)の有効性に関する論文 (SUMMIT試験)について教えてもらいましたのでご紹介します。

 

 

SUMMIT試験の概要

心不全で心ポンプ機能が保持されている(HFpEF)患者の多くは肥満を合併しており、内臓脂肪が心不全の進行に影響を及ぼします。肥満は全身性の炎症を引き起こし、心筋に悪影響を与える可能性があります。GLP-1受容体作動薬や胃バイパス手術などの減量介入は、炎症を抑制し、心不全リスクを軽減します。チルゼパチド(GLP-1およびGIP受容体作動薬)は、肥満患者で大幅な体重減少をもたらすことが知られていますが、HFpEF患者での効果はこれまで不明でした。

 

SUMMIT試験では、HFpEFかつ肥満の患者におけるチルゼパチドの心不全イベント、生活の質、歩行機能への効果を評価しました。対象は、40歳以上のHFpEF患者(左室駆出率≥50%、BMI≥30)731人で、チルゼパチド(最大15mg/週)またはプラセボを無作為に投与しました。追跡期間の中央値は104週間(約2年)で、主要評価項目は以下の2つです:

  1. 心血管死または心不全悪化イベント
  2. 52週時点での生活の質(KCCQ-CSS)の変化

 

平均体重が 103kg、BMI 38

 

糖尿病の有病率は 48%前後

 

試験結果

・心不全イベント:チルゼパチド群はプラセボ群に比べ、心血管死または心不全悪化イベントが有意に少なく(9.9% vs 15.3%、ハザード比0.62、P=0.026)、特に入院を伴う心不全悪化が減少しました。

・生活の質:52週時点で、チルゼパチド群のKCCQ-CSSはプラセボ群に比べ大きく改善(+19.5 vs +12.7ポイント、P<0.001)。

・その他の効果:チルゼパチド群では体重が13.9%減少し(プラセボ:2.2%)、6分間歩行距離が18.3m増加、CRP(炎症マーカー)が34.9%低下しました(すべてP<0.001)。

・安全性:重篤な有害事象は両群で同等でした。チルゼパチド群の4.1%が消化器症状により投与を中止しました

 

複合イベントは1年経たずして差が出現してます

 

体重減少により6分間歩行距離も大幅に伸びています 

 

チルゼパチドは、HFpEFかつ肥満の患者において心不全イベントを減少させ、生活の質や運動能力を向上させることが示されました。この効果は、体重減少、炎症抑制、血圧低下に起因すると考えられます。本試験の糖尿病患者の割合は48%で、過半数の方は非糖尿病です

 

またBMI<30の患者は試験に含まれていませんが、BMI≥30の患者と比較して効果はやや弱まる可能性があるものの、体重減少や炎症抑制効果により、長期的には心血管イベントの抑制が期待されます。

 

 

現実的な課題とマンジャロの価値

健康診断で医師から「食事と運動で減量を」と指導されることは一般的ですが、実際に実践できる人はどれほどいるでしょうか。指導する医師自身がその目標を達成できているかも疑問です。「言うは易く行うは難し」です。

 

マンジャロの長期投与に関する副作用データは現時点で不足していますが、過去の薬剤の歴史を振り返ると、重大な問題が生じて使用が中止される可能性は低いと考えられます。まして短期的な使用であれば安全性と効果の面でメリットは大きいと考えられます。

 

この研究から私が学んだのは以下の3点です:

  1. 食欲が自然に抑えられることで、適切な食事量を理解しやすくなる。
  2. 体重減少により身体が動きやすくなり、運動へのモチベーションが向上する。
  3. マンジャロ中止後も、食事や運動療法を継続しやすくなる(やや期待を含みますが、実践できている方も少なくありません)。

 

長くなりましたが、GLP-1およびGIP受容体作動薬は、SGLT2阻害薬とともに、生活習慣病、心臓病、腎臓病の治療を大きく変革する可能性を秘めています。当院では、患者様一人ひとりの悩みに寄り添い、最善の医療を提供できるよう努めております。何かお困りのことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。

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