マイコプラズマ感染症について
コロナ禍の制限が解除されて以降、増加傾向にあり、今年は過去に類をみないほどの感染者数を見せているマイコプラズマについてご説明します。
マイコプラズマって何?
マイコプラズマ感染症は、「肺炎マイコプラズマ( Mycoplasma pneumoniae )」という細菌に感染することによって起こる呼吸器感染症です。小児や若年層の肺炎の原因として比較的多い感染症の1つで、潜伏期間は2〜3週間と長いです。発熱や乾いた咳が長引くことがマイコプラズマの特徴です。
マイコプラズマは、比較的小児や若年者にとっては「うつりやすい感染症」といえます。
マイコプラズマは主に飛沫感染といって、咳やくしゃみなどにより細かい唾液や気道分泌物が空気中に飛び出すことで、約1メートルの範囲で人に感染させます。また接触感染もあります。
さらに、マイコプラズマの潜伏期間は2〜3週間もあります。したがって、感染経路が特定できずに広がりやすいです。しかも症状自体が発熱もなく「頑固な咳だけ」でなかなか特定しづらい場合もあります。
他の感染症と何が違うの?
マイコプラズマは、下記の点で、一般的な細菌による呼吸器感染症と特徴が異なる感染症です。
・健康的な若い方、特に5~25歳に好発します。
約80%が14歳以下ですが、成人でも発症することがあります。
・激しく頑固な咳が特徴的で、痰は目立たないことが多いです。
症状は、発熱や頭痛・倦怠感で始まることが多いですが、それよりも熱が下がった後も3~4週間続く咳で悩まされる患者さんが多く、その他の慢性咳嗽をきたす疾患との鑑別が重要です。
また、5~10%では、肺炎に至り、重症化することもあります。
その他に、皮疹・中耳炎・胸膜炎・心筋炎・髄膜炎などの合併症を呈することもあります。
マイコプラズマ感染症の診断
マイコプラズマ感染の判断基準として
- 年齢60歳未満
- 基礎疾患がない、あるいは軽微
- 頑固な咳がある
- 胸部聴診上所見が乏しい
- 痰がない、あるいは迅速診断法で原因菌が証明されない
1から5までの5項目のうち3項目を満たす場合、非定型肺炎の疑いが強くなり、感度83.9%、特異度は87%に達します。さらに、「末梢白血球数が10,000/μL未満である」を加えた診断法の場合は感度77.9%、特異度93.0%(4項目合致時)まで上昇します。実際、「ゼエゼエ」いうような努力性呼吸や、「ゼコゼコ」するような多量な痰を伴う呼吸は、マイコプラズマ肺炎には見られにくいです。
診断には以下の検査が用いられます。
迅速検査の方法
溶連菌感染症の抗原検査と同様、10~15分程度で結果が出る迅速抗原検査があります。
長い綿棒でのどの奥の方を軽くこするだけの検査で負担はほとんどありません。
これらいずれの検査もマイコプラズマの診断に有用ですが、迅速に確定診断に至ることが難しい場合もあります。マイコプラズマは、聴診や血液検査(白血球の値)の所見が乏しい為、検査結果に加えて症状や経過など、全体像をみながら診断・治療へつなげていく必要があります。
マイコプラズマの治療方法
マイコプラズマ感染症の治療の王道は抗生剤治療です。治療をしなくても自然治癒することもありますが、重症化予防の為には抗生剤治療がやはり必要不可欠です。ただし、一般的な細菌感染で用いられるペニシリン系やセフェム系の抗生剤は効かない為、注意が必要です。これら抗生剤で全く効果が得られず、頑固な咳嗽が長引いている場合にはマイコプラズマ感染症が疑われます。
マイコプラズマ感染症の第一選択となる治療薬は、マクロライド系抗生物質であるアジスロマイシンです。その他に、テトラサイクリン系抗生物質(ミノマイシンなど)やニューキノロン系抗生物質(オゼックスなど)も有効ですが、あくまで第二選択の立ち位置となっています。尚、市販の風邪薬は根本治療にはなりませんので必ず医療機関で治療を受けることも大切です。
いつまで学校や会社を休む必要がある?
自宅療養期間に決まった定めはありません。
ただし、発症から1週間程度は、マイコプラズマの排出量が多く、感染力が強い為、感染予防に特に注意する必要があります。また、排出のピークが過ぎた後も、感染する可能性は十分にある為、症状が改善した後も可能な限り、長期間感染予防に努めることが大切です。かかりつけの先生とよく相談しながら、登校・出社のタイミングを検討しましょう。
比較的濃厚な接触で感染するため、麻疹やインフルエンザのように学校で一気に流行するということはまれです。新型コロナの時に実施していた予防対策はマイコプラズマにも効果的であり、マスク着用や空間隔離、アルコール消毒、うがいなどはマイコプラズマにも有効です。
したがって、マイコプラズマとわかっている方や長引く咳でマイコプラズマが疑われている方と近い距離で接触する方は、適切な予防処置をとることでマイコプラズマに対する感染予防に繋がります。
寒さが増すこれからは、様々な呼吸器感染症が心配な時期を迎えます。咳や鼻汁、くしゃみなどの症状はは、周囲の人が過敏になる季節です。気になる症状や体調の変化がありましたら、当院へお気軽にご連絡・ご受診ください。