2024年11月の1枚です (John Lennon & Yoko Ono)
John Lennon & Yoko Ono
Some Time in New York City (1972)
注目の大統領選が終わりました。世界情勢は常に追っていますが、この結果は、アメリカ国民の意思を鮮明に反映した結果と言えます。そしてこの結果は、我々の生活にも直結しますので、決して他人事ではありません。今月はこのアルバムを取り上げたいと思います。少し固い内容になりますがお許しください。
高校時代から愛聴してきたジョンとヨーコの大作です。2枚目のライブ盤は、高校生には刺激が強過ぎましたが、今の耳で聴いても十二分に刺激的です。この時期のジョンとヨーコは、自由の解放を求めてアメリカ政府と闘っていました。
名作”Imagine”に続く3作目ですが、あまりに政治色が強すぎるため、評価は極めて低く、セールスも芳しくありませんでした。ジョンのアルバム作品の中で、群を抜いて奇抜で荒削りな曲が並んでおり無理もありません。ジャケット写真も凄まじいインパクトです。ほとんどのミュージシャンは、ある種の美を追求しますが、ジョンは全く異なります。外面も内面も全てを剥き出して我々に投げかけてきます。そこには万人には受け入れられないスペシフィックなシンパシーが存在します。
聴く音楽が、その人の生き方を代弁した時代がありました。本作は駄作のような扱いですが、そのようなこだわりを持つ人々から圧倒的な支持を集めた一枚です。
ニューヨークタイムズを模したジャケットが衝撃です
一人(ヨーコがいるので二人ですね)で敢然と世界の体制に立ち向かい、メッセージを発し、行動し、そして世界中の多くの人々に影響を与え続けました。米国では国外退去通告を受け、FBIに監視されていました。そして最後は悲劇の死をとげます。ジョンはどこまでも人間くさいです。自分の信念を貫く姿勢には学ぶべきものがあります。そんなミュージシャンは後にも先にもジョンだけです。ヘマしても失言しても、それはちっぽけな事、ジョンは気にしません。僕はそんなジョンが大好きです。もしジョンが存命だったなら、世界はどうなっていたでしょう。
このアルバムは、「他人が言うことを鵜呑みにするな。自分の頭で考えるんだ。小さな失敗なんて気にしてどうする。大切なことは物事の本質を見抜き、信念を持って行動を続けることだ」と教えてくれているようです。
ここでジョンとヨーコが発するパワーは、全作品中最も高いです。人種差別、人権、そして反戦と平和を訴える姿に心動かされます。ヨーコの曲も前衛的でありながらも心に突き刺さります。そしてプロデューサーは、言わずと知れたフィルスペクターです。“ジョンの魂”は、ジョンが内向的に自身と向き合った歴史的名盤ですが、“サムタイム〜”は、外向的ジョン魂とも呼べます。
US盤テストプレス
“The Luck of The Irish”は、25年聴き続けた今でも特別な一曲です。聴くたびに感じることがあります。そう、この世界は何も変わっていません。今の時代も、権力者による支配が続いています。悲壮感と無力感、そして絶望感に苛まれながら、我々はこの無情の世界で生きていかなければなりません。この曲は僅かな時間ではありますが、苦しみや悲しみから我々を解放してくれます。
レコードで聴く”サムタイム〜”は鬼気迫る音で、そのリアリティが凄まじいです。鬼才フィルスペクターに音を委ねたことは英断であったと思います。
アメリカ大統領選が終わった今だからこそ聴き直すべき歴史的重要作です。