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高血圧治療: 降圧薬の選び方について

[2024.11.18]

すっかり秋になりました。周囲に山も徐々に色づき紅葉が美しい季節を迎えます。日本の四季は実に美しいです。相変わらず季節に敏感にいたいものです。

 

本日は高血圧治療薬の使い分けについてお話ししたいと思います。

 

突然ですが、クリニックや病院を受診した際に、薬を処方された際に、その薬に対してどう感じますか?この薬は果たして血圧をしっかり下げるのか?薬の副作用はどうなのか?薬代が高かったけどこれはどの程度いい薬なのかな?

 

捉え方は人それぞれだと思います。では医者は何を考えながら薬を出しているのでしょうか。

 

当院では、①薬の降圧作用、②降圧効果以外に期待できる効果、③ポリファーマシーの問題、④対費用効果を総合的に加味しながら薬剤の選択や調整を行っております。

 

降圧剤は、主に以下の5つに分類されます。

 

 

 

Ca拮抗薬 (Ca blocker)

Ca拮抗薬は高血圧治療で最も用いられる薬剤です。血管拡張作用により降圧効果が得られます。

 

後述するARB、ACE阻害薬、ARNと比べ、心臓・腎臓を守る作用は劣りますが、それでも高血圧治療薬として頻用されるのは、①安定した降圧効果、②他の薬と併用しやすい、③薬価も安い点にあります。

 

 

Ca blockerの代表格は、アムロジピンとアダラートCR(ニフェジピン)です。

 

特にアムロジピンは1回内服で降圧効果を得られ、配合錠も豊富なため、薬の数を減らすという観点でも頻用されています。

 

一方アダラートCRは、アムロジピンよりも降圧効果が強く、早朝高血圧もコントロールしやすい特徴があります。また冠攣縮性狭心症 (異型狭心症)にも効果があり、コニール (ベニジピン)と共に用いられる薬剤です。患者さんの高血圧状況や背景疾患を加味しながら薬の選択を行っています。

 

副作用として、頭痛や足のむくみが出ることがあります。内服後にこのような症状が出る場合は薬剤を変更します。また、グレープフルーツジュースで降圧力が増強することが知られていますが、グレープフルーツジュースを愛飲している患者さんでない限りは過度に避ける必要はありません。

 

 

ARB, ACE阻害薬

ARB、ACE阻害薬はそれぞれ異なる機序でレニン-アンジオテンシン系を抑制することで、血管収縮の抑制に加え心筋細胞壊死・線維化、自律神経活性を抑制する作用を兼ね備えた高血圧治療薬です。そのためこれらの薬剤は心臓や腎臓保護作用を有します。

 

一般的にCa拮抗薬で降圧が不十分な患者さんで併用されることが多いですが、心筋梗塞後、心不全、慢性腎臓病を背景疾患に持つ高血圧症患者さんなどでは第一選択として選ばれることが多いです。

 

私見ですが、ARBの降圧作用の強さは以下の通りです。

 

 

ACE阻害薬が使用されることもありますが、レニベース(エナラプリル)がほとんどで、心筋梗塞後や心不全治療に用いられることが多いです。長年使用されてきた経緯もあり、循環器内科医(特に年配の医師)が処方することがほとんどです。かく言う私も長年使用してきましたが、近年は使用する機会が減っています。

 

副作用として、一過性の腎機能悪化や高K血症が挙げられます。またACE阻害薬で空咳が見られることがあります。

 

 

ARNI (エンレスト)

ARNI(エンレスト)はARBやACE阻害薬の持つレニン-アンジオテンシン系を抑制する作用だけでなく、血管拡張作用や利尿作用を有するサクビトリルを併せ持つことで心臓の負担を取り除いてくれる新しい心不全治療薬です。2020年に高血圧症にも適応が拡大しました。

 

高血圧症の患者さんは多かれ少なかれ心臓に慢性的な負担がかかり、心臓が次第に硬くなっていきます(これを拡張障害といいます)。さらに進行すると心不全を発症してしまいます。したがって、血圧を下げながら長期的な視野で「心臓を守っていく」という意味でも非常に優れた薬剤ですので、当院では患者さんの背景を考慮した上で、高血圧治療薬として導入することも少なくありません。(ただし高血圧のみでは第一選択薬となりません)

 

 

 

また、既に心機能の低下した患者さんではARBやACE-阻害薬からARNIへ切り替えることがガイドラインで推奨されています(Class I)。

 

さらにARBやACE阻害薬と同様、「腎臓を守る作用」を兼ね備えるのに加え、不整脈を減らしたり、糖尿病や高尿酸血症などを改善する作用も報告されています。

 

降圧作用はARBやACE阻害薬よりも強力であり、過降圧に伴うふらつきを認めることがあります。また尿量の増加をきたすことがありますが、これは薬剤のプラスの効果です。内服開始後に体調に気になる変化が現れた際は、ご連絡ください。

 

 

利尿薬

高血圧治療に用いられる利尿薬には、①サイアザイド系利尿薬、②ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の2種類があります。

 

体内の過剰な塩分と水分を取り除くことで降圧作用を示しますが、降圧効果は限局的で、第一選択薬として選ばれることはありません。しかしながらCa 拮抗薬やARB・ACE阻害薬で降圧が不十分な場合や、塩分摂取が過剰な患者さんなどに導入すると、降圧が図れるケースがあります。

 

サイアザイド系利尿薬には、フルイトラン(トリクロルチアジド)やヒドロクロロチアジドがあります。一方、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬には、アルダクトン(スピロノラクトン)、セララ(エプレレノン)、ミネブロ(エサキセレノン)があります。

 

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬には、心保護作用があり心不全治療薬として用いられる側面があります。またそのうちのミネブロは腎臓を守る腎保護作用も有しており、近年注目される薬剤です。

 

副作用として電解質異常(ミネラルバランスの崩れ)が挙げられます。そのため定期的な血液検査を行う必要があります。

 

 

β遮断薬

β遮断薬は、心不全や頻脈性不整脈・期外収縮など主に心疾患に対して用いられることが多く、降圧作用もそれほど強くないため、降圧目的に用いられることは稀です

 

降圧目的に用いるβ遮断薬は、アーチスト(カルベジロール)とメインテート(ビソプロロール)で、「心臓を休ませる」作用が主な目的となります。これらの薬剤は、ARBやACE阻害薬、またミネラルコルチコイド受容体拮抗薬と並んで心保護作用があり、慢性心不全の治療に用いられることが多いです。また降圧作用の他に、脈を落ち着かせる作用があるため頻脈性不整脈に用いられます。

 

一般的に、気管支喘息や肺気腫、徐脈(脈が遅い)などの患者さんの投与には注意が必要となるため循環器内科医が処方することが多いです。

 

 

このように高血圧治療には多くの薬剤が用いられます。各薬剤に特色があるので、ただ血圧を下げるだけでなく、現状そして今後想定しうる背景疾患(心臓疾患や腎臓疾患など)を考慮しながら、それぞれの患者さんに適した治療薬の選択調整を行っています。

高血圧治療は専門領域ですので、高血圧症でお困りの患者様はお気軽にご相談ください。

 

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