悪玉コレステロールが高いのですが、薬は飲まないといけないのですか?
「悪玉コレステロールが高いのですが、薬は飲まなくても良いですか?」
健診で悪玉コレステロールが高いことを指摘され、受診される方は多いです。本日はその質問にお答えしたいと思います。
悪玉コレステロール、つまりLDLコレステロールが高ければ何が問題なのか?」
症状はないままに進んでいきますので、健診等で高いと言われてもなかなかピンとこないものです。
しかし、コレステロールは血圧や血糖値と同じく動脈硬化の進展に大きく影響を及ぼします。やがては血管の詰まりをきたし、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす懸念があります。そのためそのまま放置するのではなく、検査結果をきちんと受け止め、データを是正していくことが大切です。(詳細につきましては生活習慣病外来をご参照ください)
LDLはどのくらいなら良いの?
LDLコレステロールの管理目標値(目指すべき目標値)は、実は患者さん毎に異なります。したがって、「悪玉コレステロールの値が~と高いから、薬を飲んだ方が良い」と値だけをみて一概に言うことは難しく、性別・年齢を含めた患者さん個々の背景因子をみて、総合的に治療すべきかすべきでないかを当院では判断しております。
その為には、患者さん毎の悪玉コレステロール (LDL)の目標値を知ることから始まります。そのための”1つの”指標として、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版」では、絶対リスクの評価法として新規に久山町研究スコアが採用されましたが(、少し複雑なので、可能な限り分かりやすく説明したいと思います。
まず患者さんの背景ごとに管理目標が異なります。
- 厳格なコントロールが必要な患者さん
冠動脈疾患つまり狭心症や心筋梗塞の既往のある患者さんや、アテローム血栓性脳梗塞(動脈硬化由来の脳梗塞)の既往のある患者さんは、繰り返さないようにするため二次予防の観点から、目標値は100未満と厳しく設定されています。
さらに、その中でも、「急性心筋梗塞や不安定狭心症」・「家族性高コレステロール血症」・「糖尿病」・「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の両者の既往」のいずれかがある患者さんでは、さらに厳しく70未満に設定されています。
リスクの高い患者さんでは再発予防(二次予防)が非常に重要である為、「Lower the better」=低ければ低い程良いという考え方もあります。実際、海外ではさらに低い管理目標値に設定されており、厳格なコントロールが求められています。
- 明確な動脈硬化リスクをお持ちの患者さん
糖尿病・慢性腎臓病・閉塞性動脈硬化症のいずれかがある患者さんは、目標値は120未満となっています。
さらに糖尿病患者さんのうち、網膜症・腎症・神経障害のいずれかの合併症があったり、喫煙している場合には、さらに厳しく100未満に設定されています。
- その他のコレステロールの高い患者さん
上記以外の患者さんでは久山町スコアでリスク評価し、目標値120未満か140未満か160未満かに分類されます。
久山町スコアは下に示した通りです。
- ①〜⑥の合計ポイントを計算し、右の表でどの色に相当するか確認します。
右の表の「%」は、10年以内に冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を発症する確率です。
A) 低リスク(水色)の場合は、管理目標値 160未満
B)中リスク(黄色)の場合は、管理目標値 140未満
C) 高リスク(赤色)の場合は、管理目標値 120未満
となります。
それでは、具体的な例でお示ししたいと思います。
A)「56歳、男性、血圧 127/80、糖代謝異常なし、LDL-C(悪玉コレステロール)155、HDL-C(善玉コレステロール)62、喫煙なし」
→この患者さんの場合、① 7点 ② 1点 ③ 0点 ④ 2点 ⑤0点 ⑥ 0点から、合計10点となります。
右側の表で10年以内に冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を発症する確率が13.6%となります。
中リスク(赤色)に該当する為、管理目標値は120未満となりますので、食事・運動療法で頑張っても目標まで到達するのが難しいかもしれません。その後の経過に応じて薬による治療を考慮します。
このように、男性は女性より一般にリスクが高いので、久山町スコアでは男性の方が管理目標値が厳しくなっています。
B)「65歳、女性、血圧 136/85、糖代謝異常なし、LDL-C(悪玉コレステロール)180、HDL-C(善玉コレステロール)64、喫煙なし」
→この患者さんの場合、①0点 ②2点 ③0点 ④3点 ⑤ 0点 ⑥ 0点から、合計 5点となります。
右側の表で10年以内に冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を発症する確率が<1.0%となりました。
中リスク(水色)に該当する為、管理目標値は160未満となりますので、目標達成するには食事・運動療法もう少し頑張れば目標達成できそうです。
このように、悪玉コレステロールの管理目標値は、患者さんによって異なります。
したがって、悪玉コレステロールの治療薬を飲むべきかどうかというよくいただくご質問も、悪玉コレステロールの値だけでは一概に判断できず、患者さん個々の背景をみて判断しております。
悪玉コレステロールが高いと以前から指摘されているが薬を飲むべきか悩んでいるというような患者様がいらっしゃいましたら、一度ご相談いただけますと幸いです。