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心房細動のカテーテルアブレーション後は薬を止められる? 〜カテーテルアブレーション治療と薬物治療の意義について〜

[2025.03.01]

心房細動が見つかると、どこのクリニックでも投薬加療やカテーテルアブレーションを勧められるかと思います。心房細動治療の目的はなんでしょうか?症状を抑えるため?脳梗塞を予防するため? 心房細動と診断されると、サラサラ薬 (抗凝固薬)が開始となることが多いですが、アブレーション治療を行うことで内服をやめることができると場合があります。では、どのような方が中止できて、どのような方が継続となるでしょうか?本日はアブレーション治療後の抗凝固薬の必要性についてお話しします。

 

 

心房細動 (AF)は、年齢と共に有病率が増加する疾患です。心房細動は、刺激伝導系に異常がなければ頻脈となり、動悸や胸部不快感、息苦しさなど様々な症状が出現します。心房細動の最大の問題点は、心原性脳梗塞を来たすことです。ノックアウト型と言われ、麻痺などの致命的なダメージを残します。そのため抗凝固療法 (DOACあるいはワーファリン/ファルファリンの内服)を行います。その他にも弁膜症や心不全を起こし、認知症のリスクを高めることも報告されています。詳細につきましては心房細動の項をご参照ください。

 

カテーテルアブレーションは、心房細動を根治するための有効な治療法です。肺静脈隔離術を行うことで高確率に心房細動を抑えることができます。しかし完全に抑え切れるわけではなく、1回の治療での成功率は、発作性で80-90%、持続性で約70%、慢性で50-60%程度です。そのためアブレーション後の抗凝固療法の継続または中止の判断は、患者個々の状況に基づいて慎重に行われます。主に考慮されるのは、脳卒中や塞栓症のリスクと、出血リスクのバランスです。以下に、その判断基準をお示しします。

 

脳卒中リスクの評価(CHADS₂あるいはCHA₂DS₂-VAScスコア)

カテーテルアブレーション後も、心房細動が完全に治癒したかを保証することは難しく、再発の可能性が残ります。我々不整脈医は、アブレーション後も心房細動の再発がないか、慎重にフォローを続けます。その際に、脳卒中のリスク評価に用いられるCHADS₂あるいはCHA₂DS₂-VAScスコアが重要な指標となります。

 

CHA₂DS₂-VAScスコアの構成要素

 

 

判断の目安

スコアが0(男性)または1(女性のみがリスク因子)の場合抗凝固療法の中止を検討できる可能性があります。

スコアが2以上の場合、再発リスクや基礎疾患を考慮し、抗凝固療法を継続することが一般的です。

 

 

アブレーションの成功と再発の有無

アブレーション治療後の経過がよく、心房細動が再発していないことが長期的に確認された場合、抗凝固療法の中止が検討されることがあります。通常、術後少なくとも2~3カ月の経過観察を行い、ホルタ―心電図等で再発がないことを確認します。ただし、無症候性の心房細動が見逃される可能性もあるため、慎重なモニタリングが必要です。

 

 

出血リスクの評価(HAS-BLEDスコアなど)

抗凝固療法を継続する際には、出血リスクも考慮されます。HAS-BLEDスコアを用いて評価します。

 

HAS-BLEDスコアの構成要素

 

 

出血リスクが高い場合(スコア3以上など)、抗凝固療法の中止や減量が検討されることがあります。

 

 

ガイドラインに基づく推奨について

日本循環器学会や欧米のガイドライン (AHA/ACC/HRS)では、術後少なくとも2カ月間は抗凝固療法を継続することが推奨されています。その後の継続/中止は、CHA₂DS₂-VAScスコアや患者さんの状態に基づいて決定されます。

 

低リスクの患者さん(CHA₂DS₂-VAScスコア0~1)では、術後3カ月以降に中止を検討する場合もありますが、高リスク患者さんでは長期継続が推奨されます。

 

患者個別の要因

年齢、性別、生活習慣(喫煙、飲酒)、併存疾患(腎機能障害など)、患者さんの希望なども考慮されます。例えば、高齢者や腎機能が低下している患者さんでは、出血リスクが高いため、抗凝固薬の種類や用量を調整するか、中止を早めに検討することもあります。ただし、中止することで脳梗塞リスクが高まることには常に注意を払う必要があります。日々の血圧・脈拍測定 (脈不整を評価してくれる血圧計が望ましい)や検脈 (ご自身で脈に触れて不整がないかを確認)が大切で、スマートウォッチも有用と考えられます。

 

 

心房細動のカテーテルアブレーション後の抗凝固療法の継続または中止の判断は、脳卒中リスク(CHA₂DS₂-VAScスコア)、出血リスク(HAS-BLEDスコア)、アブレーションの成功度、再発の有無を総合的に評価して決定されます。実際には、主治医が患者さんの状態を詳細に把握し、最新のエビデンスやガイドラインを基に個別化された判断を行います。重要な点は、患者さんと医師が具体的なリスクとベネフィットを話し合いながら心房細動と向き合っていくことにあります。何かご不明な点がございましたら当院までお尋ねください!

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