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思い出の1曲 (PRINCESS PRINCESS)

[2025.02.24]

PRINCESS PRINCESS

Diamonds (1989)

 

突然ですが、プリンセス プリンセスの「ダイアモンド」を聴いて何を思い浮かべますか? 人それぞれにリンクする思い出があるでしょうが、私の場合は運動会です。小学生の頃、毎年必ず徒競走の際に流れていたのを今でも鮮明に記憶しています。あれからもう30年以上が経ちますが、記憶は色褪せません。ふとしたことから、レコードで聴いてみたいという衝動に駆られました。運動会の季節ではありませんが、本日はこの曲を取り上げたいと思います。

 

各々の個性が映えるカバージャケット (GNR最高!)

 

プリンセス プリンセスの「Diamonds(ダイアモンド)」は、1989年4月21日にリリースされました。この曲が放つ輝きは、バブル景気の喧騒の中で生まれながら、それを超越した普遍性を獲得しています。この曲の種は、作曲者の奥居香さんが経験した一見些細な出来事に根ざしています。彼女が20代前半だった元旦に、当時の恋人の実家で思いがけずお年玉を受け取った帰り道、幸せな気持ちがモータウンのリズムとメロディーとして結晶化しました。(Wikipedia参照) 仮タイトル「お年玉」という素朴さが示すように、「ダイアモンド」は高価な物質的象徴ではなく、日常の中のささやかな喜びを起点としています。ここに、プリンセスプリンセスの音楽が持つ等身大の魅力の一端が垣間見えます。

 

奥居さんが自宅でMTRにリズムを打ち込み、ギターとベースで仕上げた原型に、中山加奈子さんが詞を乗せました。この詞は、感覚的な情景描写と感情の迸りを織り交ぜ、聴く者に鮮烈なイメージを植え付けます。「冷たい泉に素足をひたして 見上げるスカイスクレイパー」という冒頭の一節は、都市の冷ややかさと個人の温もりを対比させつつ、若さゆえの無垢な冒険心を映し出します。

 

興味深いのは、この曲がバブル景気の絶頂期に生まれながら、物質主義を賛美するのではなく、内面的な「宝物」を讃えている点にあります。歌詞に登場する「ダイアモンド」は、宝石そのものではなく、人生の断片的な瞬間の輝きを指すメタファーです。この視点は、当時の浮かれた消費文化に対するアンチテーゼではないかと勘ぐることもできます。そして制作過程における5人のメンバーの化学反応も見逃せません。全員がプレイヤーでありソングライターでもある彼女たちは、個々の才能を融合させ、一つの結晶を生み出しました。モータウンの影響を受けた軽快なリズムと、ロックバンドとしてのダイナミズムが交錯するこの曲は、商業的成功を狙った計算を超えた純粋な創造の産物でもありました。

 

凛とした5人の佇まいに惚れ惚れします!



「ダイアモンド」はリリース後瞬く間にオリコンチャート1位を獲得し、年間ランキングでも首位に輝きました。CDのみでミリオンセラーを記録した初のシングルという記録は、アナログからデジタルへの移行期を象徴するだけでなく、プリンセスプリンセスがガールズバンドのパイオニアとして時代の波を捉えた証でもありました。しかし、「ダイアモンド」はその文学的・音楽的深層にこそ、真の輝きがあります。

 

歌詞の構造とイメージの豊かさが本当に素晴らしいです。中山さんの言葉は直観的でありながらも詩的で、「針がおりる瞬間の胸の鼓動焼きつけろ」や「耳で溶けて流れ込む媚薬たちを閉じこめろ」といった表現は、五感を通じて感情を掴む力を兼備します。これらは単なる情景描写を超え、記憶や情動が「ダイアモンド」として結晶化する瞬間を捉えています。コード進行においても、マイナーからメジャーへの移行が歌詞の感情の揺れと共鳴し、聴く者に「うまく言えないけれど宝物だよ」という核心を体感させます。特にサビの「AH」という掛け声は、言語化できない感情の爆発として機能し、普遍的な共感を誘発する仕掛けのようです。ここに、文学的な余韻と音楽的な推進力が融合しているような芸術性を感じます。

 

さらにこの曲が興味深いのは、時代性と普遍性の両立を成し遂げた点にあります。1989年のバブル期特有の高揚感が背景にあるにも関わらず、「ダイアモンド」とは物質ではなく経験や感情であるというメッセージは、時代を超えて響きます。東日本大震災後の2012年の再結成ライブで、アンコールのラストを飾ったこの曲が9万人の大合唱を巻き起こしたのは、決定的な証左です。当初は「女性のときめき」を歌った曲が、「日常の中のささやかな場面こそが宝物」という深いテーマへと昇華しました。楽曲自体がリスナーと共に成熟し、新たな光景を見せた稀有な例です。



レコードで聴く「ダイアモンド」は、私が想像した以上の魅力を放っていました。特にベース(渡辺敦子さん)とドラム(富田京子さん)のリズム隊が素晴らしい!彼女たちが憧れたであろうクラッシュ、ポリス、ランナウェイズ、ガンズアンドローゼスなどに比肩するくらい素晴らしい演奏を聴かせます。個々の演奏力はもちろんのこと、バンドの一体感そして曲の放つ躍動感は唯一無二です。

 

音の引き締まりが際立つ45回転EP

 

これは彼女たちの才能が結実した一粒の宝石であり、同時に日本のポップ史に刻まれた遺産です。日常の些細な喜びから生まれ、時代を超えて愛されるこの曲は、物質的な豊かさではなく心の豊かさを讃えます。その輝きは、聴く者の記憶に新たな「ダイアモンド」を刻み続けることでしょう。30年以上経っても全く色褪せない、永遠に輝く物語の断片、それがプリプリのダイアモンドです。あの頃を思い出しながら、是非聴いてみてください!

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