インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の診療と対策について
短い秋が終わり、一気に冬が到来しました。感染症の流行が懸念される季節ですが、広島市でも11月21日にインフルエンザの流行期入りしたことが発表となりました。
本日は、2024年度のインフルエンザと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診療に関するガイドラインに基づき、診療と対策について説明致します。
本文の最後に感染時の学校の欠席や仕事の欠勤について触れています。ご参照ください。
インフルエンザの診療と対策
診断
- 症状と問診
インフルエンザは、急な発症と高熱(38℃以上)が特徴です。加えて、筋肉痛、関節痛、喉の痛み、咳、頭痛などの症状も見られます。コロナウイルス感染症と症状が似ているため、患者の症状や接触歴(感染者との接触歴)などの問診が重要となります。 - 迅速診断キット
インフルエンザの診断には、迅速診断キット(抗原検査)を使用することが一般的です。検査は発症から48時間以内に行うのが最も効果的ですが、発症から時間が経過していても高い感度を示す場合があります。 - PCR検査(インフルエンザウイルス)
高感度なPCR検査が必要な場合もありますが、急性期における診断には一般的に迅速診断が用いられます。
治療
抗インフルエンザ薬
インフルエンザウイルスに対しては、下記の抗ウイルス薬が使用されます。治療は、発症から48時間以内に開始することが推奨されていますが、それを過ぎても重症化リスクがある場合は使用が推奨されます。
(1) ノイラミニダーゼ阻害薬
インフルエンザウイルスの表面にある「ノイラミニダーゼ」という酵素を阻害し、ウイルスが細胞から放出されるのを防ぎます。
代表薬:
- オセルタミビル(タミフル)
経口投与(カプセル・ドライシロップ)。すべての年齢層で使用可能。 - ザナミビル(リレンザ)
吸入薬。気管支炎や喘息などのある患者では吸入が困難な場合がある。 - ラニナミビル(イナビル)
吸入薬。1回の吸入で治療が完了する。 - ペラミビル(ラピアクタ)
静脈注射薬。重症例や経口・吸入が難しい場合に使用。
特徴:A型およびB型インフルエンザウイルスに効果的で、発症後48時間以内に投与することが推奨されます。
(2) キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬
ウイルスのRNA複製を阻害し、増殖を防ぎます。
代表薬:
- バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)
経口投与(錠剤または顆粒)。1回の服用で治療が完了する。
特徴:A型、B型の両方に効果があり、発症後48時間以内に使用。ノイラミニダーゼ阻害薬と異なる作用機序を持つため、特にウイルス量の早期減少に期待されています。
抗インフルエンザ薬の使い分け方
患者の状態やニーズに応じて以下のように使い分けることが一般的です。
(1) 患者の年齢や状況
- 小児や高齢者:
タミフル(オセルタミビル)は小児でも広く使用され、ドライシロップもあるため服用が容易です。
吸入薬(リレンザやイナビル)は、吸入が可能な年齢以降で使用されます。 - 妊婦:
妊娠中でも比較的安全性が高いとされるタミフルやリレンザが推奨されます。
(2) 投与回数や投与経路の選択
- 単回投与を希望:
ラニナミビル(吸入)やゾフルーザ(経口)が適しています。 - 経口・吸入が困難:
静脈注射薬のペラミビルが選択されます。重症例や病院入院患者に適しています。
(3) 重症度や基礎疾患
- 重症またはリスクの高い患者:
迅速な効果が求められる場合や経口・吸入が難しい場合、ペラミビルが有効です。
また、基礎疾患(喘息など)のある患者では吸入薬を避ける場合があります。
(4) 耐性ウイルスへの対応
- ゾフルーザは耐性ウイルスの問題が報告されることがあります。そのため、特定の集団感染や流行地域では注意が必要です。
注意点と効果的な使用のポイント
- 使用のタイミング:
発症後48時間以内の早期投与が推奨されています。これを過ぎると薬の効果が十分に得られない可能性があります。 - 適切な使用法の徹底:
吸入薬は、正しい方法で使用しなければ効果が減少するため、医療従事者が患者に指導することが重要です。 - 副作用への注意:
タミフルでは、稀に異常行動や幻覚が報告されています。特に小児では投与後の行動観察が推奨されています。
- 症状の緩和
高熱や筋肉痛に対しては、解熱剤や鎮痛剤(アセトアミノフェン)を使用することが一般的です。十分な水分摂取と休養が重要です。
感染予防
- ワクチン接種
インフルエンザワクチンは、特に高齢者や基礎疾患がある人々に推奨されます。ワクチンは、重症化を防ぐために有効です。 - 隔離と感染対策
インフルエンザ感染者は、発症から少なくとも48時間は他者との接触を避けるように指導します。感染予防策として、マスク、手洗い、消毒が推奨されます。
新型コロナウイルス(COVID-19)の診療と対策
診断
- 症状と問診
COVID-19は、インフルエンザに似た症状を引き起こすことがありますが、呼吸器症状(咳、息切れ、喉の痛み)、発熱、全身倦怠感、嗅覚・味覚障害が特徴的です。重症化すると肺炎や呼吸不全に進展するリスクがあるため、早期の診断が重要です。 - 検査
PCR検査がゴールドスタンダードであり、特に症状がある場合や高リスク者には迅速に実施されます。抗原検査も有効で、発症初期に検査結果が速やかに出るため、診断を急ぐ場合に使用されます。
治療
- 軽症患者
軽症の場合、特別な抗ウイルス薬を使用せず、自宅療養が推奨されることが多いです。ただし、症状に応じて解熱剤(アセトアミノフェン)や咳止め薬が使用されることもあります。 - 中等症以上
中等症以上の患者には、抗ウイルス薬(例えばバルプレビル(パクスロビッド))や、症状に応じた酸素療法、ステロイド(デキサメタゾン)などが使用されます。 - 重症患者
重症化した患者には、酸素療法や人工呼吸器、場合によっては血液透析やECMO(体外式膜型人工肺)を含む集中治療が必要です。免疫調整薬(抗IL-6抗体など)や抗体療法(例えばアクテムラ)が使用されることもあります。
感染予防
- ワクチン接種
新型コロナウイルスのワクチン(mRNAワクチン、従来型ワクチン)は、重症化を防ぐために非常に有効です。特に高齢者や基礎疾患のある人々には追加接種(ブースター接種)が推奨されています。 - 隔離と感染予防
COVID-19患者は、発症後少なくとも10日間の隔離が推奨されます。発熱が改善し、かつ少なくとも24時間の解熱後に自宅療養を再開できるとされています。医療現場では、感染者と接触する際にはフル防護具(N95マスク、フェイスシールド、手袋、ガウン)を着用することが基本です。
インフルエンザとCOVID-19の同時感染対策
- 迅速な区別診断
COVID-19とインフルエンザの症状は類似しているため、迅速に両方の感染症を診断することが求められます。両方のウイルスに対して即時診断キットを用いた確認が行われることがあります。 - 二重感染への対応
両方のウイルスに感染した場合、患者は重症化しやすいため、早期の治療開始が重要です。特に免疫が低下している患者(高齢者、基礎疾患がある人)には慎重な対応が求められます。
子供の出席停止と大人の欠勤について
子どもの出席停止期間は、学校保健安全法によって「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで(2024年3月時点)」と定められています。
それに対し大人は、インフルエンザ感染時に会社を何日休むべきか、社会的な規定はありません。そのため勤めている会社に問い合わせて確認するのが良いです。特に決まりはありませんが、一般的に子どもの出席停止期間の基準に合わせることが多いようです。
家族が感染した場合の出勤について
同居の家族が感染した場合、自身がインフルエンザに感染した場合と同様に出勤停止期間は定められていません。
インフルエンザには以前のコロナウイルスのように濃厚接触者という考えもありません。一般的に出勤可能な場合が多いですが、会社の就業規則や上司の判断によるため、まずは会社に確認しください。会社で規定がない場合は個々の判断となります。出勤が可能な場合でも、自分自身が感染している可能性があることを考慮し、マスク着用などの予防策をとりながら出勤すると良いでしょう。
自分自身で判断できないときは、医師や看護師に意見を求めるなど医療機関で相談してみてください。インフルエンザ感染での出勤停止期間は決まっていませんが、いずれにしても発熱や咳などの症状があるときはできる限り休暇をとって療養するのが良いです。
治癒証明書や陰性証明書は必要?
厚生労働省によると、職場が治癒証明書や陰性証明書の提出を求めることは望ましくなく、基本的に不要とされています。 完全に治ったり感染力がなくなったりすることを検査によって証明するのは困難です。自分自身が仕事に復帰できる状態であるのか不安なときは、医師に相談ください。
まとめ
2024年度のインフルエンザとCOVID-19の両感染症に対し、早期診断と適切な治療、予防接種、感染予防対策を徹底することが重要です。自己免疫力は非常に大切です。1日3食バランスの取れた食事と睡眠を心がけましょう。